矢野耕平先生の中学受験お悩み相談室

2016-11-11中学受験その他

 それでは、前掲した「志望理由作成例」の訂正箇所について解説しましょう。


『拝啓 季冬の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。この度は愚息が本校の入試にてお世話になります。』

⇒まず、お手紙ではないのですから「拝啓~時候の挨拶」は不要です。「愚息」という表現も願書では使用すべきではありません。この場合は「息子」でよいでしょう。願書を提出する学校は「本校」でなく「貴校」(もしくは御校など)とすべきです。「入試にてお世話になります」も願書を提出した時点で暗黙知の事柄なのです。これも削除しましょう。


『本校に憧れたのは、小学校4年生の秋です。文化祭にお邪魔させていただき、愚息に多くの展示物を見せてあげました。』

⇒「本校」を「貴校」に訂正しましょう。また、「憧れた」のは誰なのかが分かりませんね。主語の欠落に気をつけましょう。「お邪魔」という否定的表現は用いるべきではありません。また、「~させていただき」は文法上誤りです。この場合、「文化祭にまいり」と端的に記せば事は済みます。そして、「~を見せてあげる」の「あげる」は尊敬語であり、子どもに対して用いないように気をつけましょう。この場合、「あげる」ではなく「やる」という表現を使用すべきです。


『その中で、生徒たちの書道の展示を拝見いたしました。』

⇒「生徒たち」ではなく、「在校生たち」に直しましょう。因みに、「生徒」という表現に嫌悪感を抱く年輩の方は少なからずいらっしゃいます。次に「拝見いたしました」は正しいように思えますが、これも間違い。「拝見する」(謙譲語)+「いたす」(謙譲語)で「二重謙譲」になってしまいます。「拝見しました」でよいでしょう。この二重謙譲(或いは二重尊敬)は「引っかけ問題」として中学入試でも出題されます。最後にこの文章でも「主語」が省略されてしまっています。誰が「拝見した」のか明確にすべきです。


『そのダイナミックな筆使いに学校の校風「自由闊達、のびやかに」が表れており、ぜひこんな学校で過ごさせてあげたいと思いました。』

⇒まず、「学校」「こんな学校」をともに「貴校」に訂正しましょう。また、漢字のミスを見逃せません。「筆使い」ではなく「筆遣い」、「表れて」ではなく「現れて」(はっきりと目に見える形をとっている場合、「現」という漢字を用います)です。このような同訓異字、あるいは同音異義語は大人でも気をつけないとミスしてしまうことが多いのです。次に「過ごさせてあげたい」は変ですね。また「誰に」過ごしてほしいのかも書かれていません。この場合、「息子に学校生活を送ってほしい」でいいのではないでしょうか。この文章の末尾に「~思いました。」とありますが、願書の中で「思う」というきっぱりと断定しない表現は避けましょう。「~です/~ます」、あるいは、「考えます」を「存じます」という謙譲表現に変えるべきです。


『今の愚息を見ていると、性格的に臆病であり、なかなか前向きに物事に向かうことはありません。』

⇒「愚息」ではなく「息子」でしたね。あと、子どものマイナス面を強調しすぎているように感じます。子どものマイナス面はさらりと柔らかい表現+希望の持てる表現に変えましょう。たとえば「息子は周りに気を遣いすぎるきらいがあり、積極的的に行動しようという意欲はあるものの、まだまだ自分を出せないところがあります」など。そして、「前向きに~向かう」はおかしいですね。ある意味「腹痛が痛い」と同じ類の誤記といえます。


『そんな愚息の性格をこういう環境で修整したいと思った次第です。』

⇒「愚息」を「息子」に直しましょう。また、「こういう環境」とありますが、指示語の多用、とりわけ指示範囲を相手に考えさせるものを用いるのはやめたほうがよいでしょう。言い換えれば、読解問題の題材として好適なものになってしまうような「指示語」の使用は避けるべきです。「修整」は「修正」でしょうが、この表現はあまり人間の性格に対して用いる表現ではありませんね。「思った」の使用もやめましょう。


『あと、生徒たちの登下校を観察したことがあり、その表情が生き生きとしていたことも印象に残り、その際に大きな声で先生方や事務スタッフの皆さんにごあいさつなさっていた姿も印象に残っています。』

⇒「あと」ではなく、「さらに」といった添加接続詞を用いたほうがよいでしょう。前回触れたように「生徒たち」は「在校生たち」ですね。また、「登下校を観察」とありますが、厳密には「登下校の様子を観察」が正しい表記です。なお、「観察」ということばはどちらかといえば物事や動植物に使用する場合が多いため、ここは「拝見して」などに訂正してはいかがでしょうか。また、「印象に残る」というフレーズが二度登場します。これをひとつにまとめる必要があります。さらに、「先生方や事務スタッフ」とありますが、「スタッフ」という表現は違和感がありますね。ここは「教職員の皆様」とまとめておきましょう。そして、「ごあいさつなさって」とありますが、前回のブログで説明した「二重尊敬」になってしまっています。しかも「在校生たち」に対して「なさる」という尊敬語を用いるのもおかしいですね。


『こういう理由で志望します。 敬具』

⇒上述したように「こういう理由」の指し示す範囲が分かりづらいため、この部分はカットしましょう。もちろん、「拝啓」の結語である「敬具」も不要です。

 この作成例は、結論を最後の部分に持ってくるいわゆる「尾括型」ですが、志望理由を書き際は「頭括型」、つまり、志望についての直接的な理由は文章の最初に持ってきたほうが簡潔な文章が書きやすくなるはずです。


願書作成時の様子

 それでは、志望理由作成例から手直しした「志望理由模範作成例」は次の通りです。


本校の志望理由

 貴校を志望した理由、それは貴校の校風である「自由闊達、のびやかに」が息子の成長を後押ししてくれるものと期待したからです。
息子が貴校に憧れたのは小学校4年生の秋です。親子共々貴校の文化祭にまいり、そこで息子は在校生たちの書道の展示物を拝見し、いたく感銘を受けたようです。親もそのダイナミックな筆遣いに惹きつけられ、そこに貴校の校風の現れを感じた次第です。そして、息子が貴校で6年間の学校生活を送ることを心より願うようになったのです。
また、以前に貴校の在校生たちが登下校する様子を拝見したことがあり、在校生たちが自ら進んで教職員の皆様に挨拶している姿が印象的でした。
 息子は周りに気を遣いすぎるきらいがあり、積極的に行動しようという意欲はあるものの、まだまだ自分を出せないところがあるように感じています。貴校の在校生たちが登下校の際に見せた明るさとたくましさは、親が息子に希求する姿であると感じ入りました。息子が貴校での学校生活を悠々と謳歌できることが親の切望するところです。


 いかがでしょうか? 頭括型でまとめてみました。これはあくまでも一例であり、ほかにもまだまだ気をつける点があるのですが、皆さんの願書作成の一助になれば幸いです。願書作成にご不安な方は、恥ずかしがらずに父親や塾の講師にチェックを依頼するとよいでしょう。

 また、面接が課される学校の場合、作成した願書は必ずコピーをとっておきましょう。多くの学校は、その願書の内容をもとに面接をおこなうからです。




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矢野耕平先生
大手塾に13年間勤めたのちに、2007年に中学受験専門塾「スタジオキャンパス」を設立。代表を務めるとともに国語と社会を担当しています。
著書として『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)など多数あります。
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プロフィール

1973年東京生まれ。大手塾に13年間勤めたのちに、2007年に中学受験専門塾「スタジオキャンパス」を設立し、代表に就任。東京・自由が丘と三田に校舎展開している。また、学童保育施設「ABI-STA」特別顧問 も務める。著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『iPadで教育が変わる』(マイコミ新書)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)など多数。2018年12月上旬に「旧名門校 VS 新名門校 今、本当に行くべき学校と受験の新常識がわかる! 」(SB新書)が刊行。


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