矢野耕平先生の中学受験お悩み相談室

2016-12-26中学受験その他

質問

1月から入試本番を迎えます。親の私のほうが緊張してきました。娘の緊張も感じます。
これから入試本番まで、わが子にどんな言葉をかけて、どのように接してやればよいでしょうか。(平常心でいようと心がけてはいます……)
また、子どもの緊張を和げるためにどうしたらよいかのアドバイスがあれば教えてください。

回答

 こんにちは。本年もあと僅かになりました。年が明けるとお嬢様の入試がいよいよ始まりますね。この時期になると入試に挑む当人よりも保護者のほうがなんだか緊張してしまうものです。
 受験生にとっての追い込み、総仕上げの大切な時期をいかに有効に使えるかは、保護者の子への接し方が鍵を握ります。親が中学受験に対して「本気でのめりこんでしまう」「親の不安が膨らんでしまう」と入試を目前に控えた子が逃げ場をなくして行き詰まってしまう(やる気を失くしてしまう)ことがあります。入試直前期であっても、いえ、入試直前期だからこそ、親には自身の不安を隠し、子どもの前では泰然自若とした姿勢を貫くことが肝要です。つまり、親の「演技力」が求められています。


泰然自若とした母親


 ですから、「平常心」でいようというお母さまのお考えは正しいと思います。
 1月の小学校を受験勉強のために休ませたり、「朝型」にしなければいけないと明け方に子を叩き起こしたり、入試直前期のわが子に対して過度に「腫れ物扱い」をしたり……。そんなご家庭の余裕のなさが子に伝播してしまえば、いらぬプレッシャーを与えてしまい、逆効果になることが多いのです。

 入試直前期のご家庭に一丸となって取り組んでほしいこと。それは、「いかに特別なことをしないかという努力」です。

 さて、入試本番でわたしが目にした次のようなエピソードを紹介したいと思います。わたしが大上段に構えて持論を展開するよりも、実際の具体的事例をここで取り上げた方が遥かに雄弁で示唆に富んでいるように思います。お嬢様に対する接し方を考えてくださるきっかけになれば幸いです。

 ずいぶん昔の話です。当時、大手テスト会の模擬試験で4科偏差値70を一度も切ったことのない優秀な女の子がいました。その子の学習姿勢、意欲は素晴らしく、一体どのような家庭環境の中でこの子は育ったのだろうかとこちらが興味を抱くぐらい「非の打ち所のない」女の子でした。
 その女の子が第一志望校であるA中学校を受験した二月一日の夕方。わたしあてに彼女から電話がかかってきました。受話器を上げた途端、嗚咽する声が漏れてきました。聞けば、A中学校の試験の手応えが悪かったとのこと。しゃくりあげる声を聞きながら、このまま放っておいては翌日の入試に差し支えるだろうと考え、すぐ塾まで顔を出すように伝えました。
 彼女は母親とやってきました。塞ぎこむ彼女とは正反対に、母親はあっけらかんとしていました。
「もう終わった学校の入試のことを悔やんだってしょうがない。もしA中学校が不合格だったとしてもお母さんはB中学校もC中学校もD中学校も好きなんだから、どこかに入学してくれればそれで満足よ!」
そう言って満面の笑みを浮かべていました。
母親の豪快さと笑顔に彼女は救われたようで、その日は遅くまで塾の自習室で翌日のB中学校に向けて過去問の見直しに集中して取り組んでいました。
 翌二月二日。わたしはB中学校の校門前で彼女を激励しました。付き添っていた母親は、「B中学校って本当に綺麗な学校ねえ。入試が始まるまで学校見学しちゃいましょうか」と冗談交じりに屈託のない笑みを浮かべていました。彼女からは前日の悲壮感漂う表情はすっかり消え失せ、意気軒昂として入試会場へ向かっていったのです。
 B中学校の激励を終え、わたしはすぐ近くにある喫茶店で暖を取ろうとその店の扉を開けました。
 そのときです。
 喫茶店の奥の席で、うつむいて涙をハンカチで拭っている女性がいました。
 わたしと目が合いました。果たして、彼女の母親だったのです。
 母親はわたしにこんな話をしてくれました。
「あの子がA中学校に憧れて塾で勉強を始めたのは小学校3年生からでした。わたしはあの子のがんばりをずっとそばで見てきたからこそ、なんとかしてA中学校に合格してほしいと願い続けてきました。昨日のあの子の落胆する様子を見て、わたしは胸が張り裂けそうなほどつらかった。でも、その本心をあの子に見透かされてはいけない。平然とふるまうことがあの子にとって一番の応援になると考えたのです。B中学校の入試会場に入っていくあの子を見届けたら、わたしの糸がどこかで緩んじゃったのですね。先生、こんな情けない姿を晒してごめんなさい……」

 プロフェッショナルな母親とはこういう人のことだとわたしは脱帽したのです。
 彼女の安定した成績、常に前向きな学習姿勢は母親の薫陶のたまものだと合点がいきました。(なお、彼女はA中学校に無事合格、進学をしました)
 このエピソードは入試本番時期の子への接し方における様々な側面に適用できるように思います。

 お嬢様、そしてお母様に笑顔の春が訪れることを心より祈っています。



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矢野耕平先生
大手塾に13年間勤めたのちに、2007年に中学受験専門塾「スタジオキャンパス」を設立。代表を務めるとともに国語と社会を担当しています。
著書として『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)など多数あります。
中学受験業界に精通されている矢野先生へ、ぜひ受験の不安や疑問などお寄せください!




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プロフィール

中学受験専門塾「スタジオキャンパス」代表。東京・自由が丘と三田に校舎を構える。国語・社会担当。著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる』(講談社+α新書)、『旧名門校 VS 新名門校』(SB新書)など多数。最新刊は『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』(文春新書)、『早慶MARCHに入れる中学・高校』(朝日新書)。現在、プレジデントOnline、こそだてオウチーノなどで記事を連載している。


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