矢野耕平先生の中学受験お悩み相談室

2019-12-27中学受験その他

連載中の「中学受験お悩み相談室」は、この年末年始の期間はいったん休み、《特別企画》としてわたしの新刊『早慶MARCHに入れる中学・高校』(朝日新書/朝日新聞出版)を一部ベースにして、中学受験と高校受験の最新動向について紹介したいと思います。その前編となる今回はなぜ昨今中学受験が活況を取り戻しているのか。その理由について分析していきます。


中学受験が活況を取り戻した!

 首都圏の中学受験市場はいま過熱化しています。前回のピークはいまから11年前の2008年度入試でしたが、同年秋に勃発した国際的な金融危機、リーマンショックに端を発した景気低迷などが原因となり、その後数年間は私立中学受験市場の「底冷え」が続いていました。しかし、2016年度以降は私立中学受験生総数、小学校在籍者総数から算出される私立中学受験率ともに、伸長の一途を辿っています。

 一体、何が起こったのでしょうか。別に日本の景気が目に見えて良くなったわけではないのに、です。

 わたしが考える主因は以下の3点にまとめられます。

(1)「中学受験熱」の高い都心部の小学生の数が増加していること。
(2)2020年度あるいは2024年度からの大学入試改革の全貌が見えず、保護者たちの不安が高まっていること。
(3)2016年度より実行された文部科学省による「大学合格者数抑制策(定員の厳格化)」により、主として首都圏の私立大学が難化していること。これに伴い、この数年は浪人生数が増加していること。


都心部の子どもたちは激増している!?

 わたしが経営している中学受験専門塾(スタジオキャンパス)は世田谷区と港区に教場を構えています。その地で感じられるのは、周辺の児童数は増加しているということ。東京にいると「少子化」なんていうことばが信じられないくらいなのです。

 実際、それを裏打ちしたデータがあります。2018年3月に東京都が公表した「東京都男女年齢(5歳階級)別人口の予測」によると、東京23区部の0歳~14歳人口(年少人口)は、2015年度の100万3919人に対して、その10年後の2025年には107万6428と約7%増加する予測となっているのです。そして、都心に近づけば近づくほど、その増加は著しい傾向にあります。たとえば、この東京都が発表した集計の「港区」にしぼった人口予測を見てみると、2015年度の3万25人に対して、その10年後の2025年には4万155人になると見込まれているのです。実に約34%増加すると見込まれているのですね。実際に、港区の臨海部の小学校は近年マンモス化し、新たな小学校が建設されてもいます。

 皆様はもうお分かりになるでしょうが、中学受験市場を牽引する中心はこれら都心部に居を構える富裕層です。ですから、中学受験がこの先も激戦となるのは容易に予想できるのではないでしょうか。


大学入試改革は大混乱

 加えて、2020年度、2024年度と段階的におこなわれる予定の「大学入試改革」が大混乱に陥っているのも中学受験過熱化に拍車をかけています。

 大学入試改革は政府の教育再生実行会議、文部科学省の中央教育審議会などが議論を積み重ねて計画されてきたもので、従来の大学入試センター試験を廃止し、2020年度より「大学入学共通テスト」が新たに実施される予定です。この大学入試改革は、高校と大学の教育を一体で見直そうという「高大接続改革」の一環でもあります。

 この新しい大学入試が目指すものはどういうものでしょうか。教育再生実行会議の報告書に目を通すと、従来の「知識・技能」を中心に診る大学入試から、この知識・技能を土台にした「思考力・判断力・表現力」、さらにはそれらに基づいた「主体性・多様性・協働性」の能力を診る入試へと変えたいとのこと。たとえば、国語や数学は記述式の問題が増え、英語では従来の「読む・聞く」能力に加えて「書く・話す」能力を直接的に診る問題が出題し、英語では民間試験も併用したいという内容でした。

 しかし、この改革直前期になっても、この大学入試改革は混乱している状態です。

 たとえば、大学入試の合否判定の材料の一つになるとされた英語民間試験の詰めが甘かったために、諸問題が勃発。結果的に先日この試験の実施を2024年度以降に延期すると文部科学大臣が発表しました。さらに、国語や数学の記述問題はその採点上の困難さから中止することが決定しました。

 おそらくこの有様については連日テレビや新聞やネットニュースなどでご存じのことでしょう。

 そして、このニュースを見た小学生保護者はどう考えるでしょうか。わが子の大学入試に不安を覚え、できれば、大学まで直結している付属校に進学させたい。あるいは、大学入試改革で対応しうる学力を中高六年間かけてじっくりと伸ばしてくれそうな私立進学校に進学してほしい。そんなふうに考えるのは当然のことではないでしょうか。


大学受験


首都圏の大学入試が難化している!

 そして、(3)の「大学合格者数抑制策(定員の厳格化)」について説明したいと思います。

 文部科学省は2016年度より私立大学において入学定員の超過による「私立大学等経常費補助金」の不交付の基準を厳しくしています。簡単に言うと、大学入試で合格者を「出しすぎてはいけない」という指示なのですね(この真の狙いは地方大学の衰退を阻止したいというもの)。これを受けて、早稲田大学や法政大学がそれぞれ前年度(2015年度)と比較して2000名以上、明治大学、青山学院大学、立教大学、専修大学などは1000名以上も一般入試合格者数をしぼりこみました。

 その結果、上位中堅を問わず、首都圏の私立大学入試が全体的に難化しています。これにより、大学受験予備校では浪人生を対象にしたクラスの受講者がぐんと増えるという「特需」が起こっているそうです。

 この私立大学の「定員超過厳格化」は当初はあまり世間で話題にのぼることはありませんでした。しかし、子が中学受験を志す保護者が多くの私立中学校の説明会に足を運び、そこで合格実績低下の原因としてこの制度の詳細と影響の大きさを耳にすることで、「昨今の大学入試は厳しくなっているらしい」という空気がじわじわと広がってきています。その結果、子の中学受験を考え、来るべき大学入試に「先手を打って」備えたいご家庭が増えているのです。そして、昨今の中学受験では大学付属校が人気を博しています。その理由はこういうところにもあるのですね。

 次回(後編)は高校受験の変化が中学受験に及ぼす影響について考察してまいります。


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矢野耕平先生
大手塾に13年間勤めたのちに、2007年に中学受験専門塾「スタジオキャンパス」を設立。代表を務めるとともに国語と社会を担当しています。
著書として『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)など多数あります。
中学受験業界に精通されている矢野先生へ、ぜひ受験の不安や疑問などお寄せください!




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プロフィール

中学受験専門塾「スタジオキャンパス」代表。東京・自由が丘と三田に校舎を構える。国語・社会担当。著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる』(講談社+α新書)、『旧名門校 VS 新名門校』(SB新書)など多数。最新刊は『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』(文春新書)、『早慶MARCHに入れる中学・高校』(朝日新書)。現在、プレジデントOnline、こそだてオウチーノなどで記事を連載している。


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