5月4日、政府は4月7日に発令した新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言の適用期間を、さらに5月31日まで延長することを表明しました。
これにより、全国の大半の小中高大は5月いっぱいの休校を決定し、子どもたちは大人たち同様、朝から晩まで「ステイホーム」することが推奨されています。大半の私立中高一貫校はオンライン授業を提供したり、学習管理に特化したクラウドなどを利用したりして、子どもたちが毎日学べるように工夫を凝らしています。
中学受験塾だってその例外ではありません。首都圏の塾の多くはライブ授業を取りやめ、その代替策として動画授業を配信したり、ZOOMなどを活用した双方向型オンライン授業をおこなったりするようになりました。なお、わたしの経営する中学受験専門塾スタジオキャンパスは週の頭に授業動画を専用の配信システムにアップするとともに、個別の質問対応を実施しています。
こんなことを言うと、ICTは塾や学校の代わりとして十分に機能しているように感じられます。
が、果たしてそうなのでしょうか。
とある大手塾に娘さんが通っている知り合いにたずねると、こんな返答がありました。
「ウチの子は集中力が高いほうだと思うけれど、動画授業や双方向型のオンライン授業は『退屈だ』と嫌がっているね」
聞けば、「双方向型」とは名ばかりで、実際は「答え合わせ」に終始してしまっている授業になっているみたいです。また、この形式の授業では、一緒に学んでいる子の「呟き」やご家庭の「雑音」が入ったり、通信が途絶えたりすることもあるなど、大小問わずいろいろなトラブルが勃発しているようです。
少なくとも中学受験の世界ではICTによる授業は、ライブのそれには到底及ばないのだとわたしは確信しています。
付き合いのある塾講師にこの点を尋ねると、やはりわたしの抱いている感覚に近い返答が得られました。
「中学受験の塾が提供する『場』は大切です。机を並べているクラスメートに感化されつつ学ぶことには大きな意味があります。オンライン授業ではそういう『場』はなかなか構築できないと考えます」
とはいえ、いまは新型コロナ感染拡大を防ぐために自粛が求められていて、子どもたちは中学受験勉強をICTに頼らざるを得ません。
わたしからICTによる学習を進める上での注意点を列挙したいと思います。ぜひ参考にしてください。
まずは、保護者に向けての注意点です。
①ICT学習はライブ授業の代替にはそもそもなりません。親は子に対していままで(ライブ授業がおこなわれていたとき)と同じ成果を求めないでください。過度な期待はお子さんの重荷になり、学ぶことが苦痛になってしまうリスクがあります。
②PCやタブレットの画面は目が疲れますし、ICT学習における子どもたちの集中力は「続かないものだ」と割り切ることが大切です。こまめに休憩をとらせるようにしてください。
次にお子さんへの注意点です。
①動画授業を視聴する際は、こまめに一時停止して、分からないことは参考書などを使って調べていきましょう。
②画面ばかり見ていると目が疲れます。こまめに休息時間を設けるとともに、動画の内容をノートにメモするなど、「手を動かす」という作業を意識的におこなうようにしましょう。
③学習していて解決できないことがあれば、それをメモして(可能であれば)塾の先生に電話をして、質問するようにしましょう。
コロナ禍がいつ終息するか見当がつかず、親としてはつい「わが子の受験勉強は大丈夫なのか」と不安になってしまいますよね。そのお気持ちはよく理解できますが、周囲の子たちもみんな似たり寄ったりの状況なのです。
無事にライブ授業が再開されるその日まで、お子さんが「焦らず、たゆまず」コツコツと学びを進められるよう保護者は「肩の力を抜いて」応援していきましょう。
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中学受験専門塾「スタジオキャンパス」代表。東京・自由が丘と三田に校舎を構える。国語・社会担当。著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(ともに文春新書)、『旧名門校 VS 新名門校』(SB新書)など多数。最新刊は『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)。現在、AERA dot.やプレジデントOnline、ビジネスジャーナルなどで連載記事を執筆している。