ここ数年、首都圏の私立中学受験の現状は、みなさんが考えている以上に大きな変化を遂げつつあります。その背景には、来る「大学入試改革」などを各校が見据え、新たな教育方針やメソッドを構築すると同時に、それらを発信していることが大きな要因です。
こういった現状を知ったうえで、わが子の将来を託せる最良の学校選びをするために、首都圏の最新の中学受験の現状と各校の動きを首都圏模試センターの北一成先生にうかがいました。
この記事は『2020年度入試用中学受験案内』(旺文社)より転載しました。
首都圏(1都3県〈神奈川、千葉、埼玉〉)の私立中学・国立中学入試の総受験者数は、2015年から今年まで5年連続で、右肩上がりで増加しています。特に、今年は前年に比べ約2,200人増の約47,200名が受験にチャレンジしました。
同時に全小学6年生に占める私立中学・国立中学の受験者の割率も、今年は前年の15.82%から16.04%と増えたのです(表1)。
この背景には再来年から実施される「2020年大学入試改革」があることは間違いありません。
男女別の平均の出願校数は?
この数年、平均出願校数に変動はあまりありません。超難関校を含め、Web出願の導入が加速度的に広がっていて、学校によっては試験当日までWeb出願が可能なところもあります。出願自体は容易に、かつ、出願校の絞り込みもしやすくなっています。
今年3月に小学校を卒業した児童が、大学入試に挑むのは2024 年入試ですが、大学入試改革は再来年からはじまります。大学入試改革初年度では、民間の試験で英検などの民間団体が運営する検定試験を導入し、「話す」「書く」という能力が今以上に評価されることが決まっています。
ほかにも、現在のセンター試験に代わり「大学入学共通テスト」が実施され、各教科の試験では知識に加え思考力や表現力、判断力を評価するスタイルに変わります。
これらの変化を前に、ここ数年、首都圏では、大学入試改革に積極的に対応するため、中学・高校でのカリキュラムなどを新しいスタイルに変えようとする私立中学が増えています。
そういった対応に敏感な保護者は、わが子をそれらの学校に通わせたいと考え、その結果が中学受験者数の増加に拍車をかけているのです。
このような保護者の志向は、今後も続くことは間違いなく、そういう意味では、来年の入試でも首都圏の私立中学を目指す受験者数は、今年と同じように高止まりすることが予測されます。
では、今年の入試で前年より約2,200名も増えた受験者の多くが、どういった学校、さらにはどのような入試に集まったのかを見てみましょう。
まず、従来型の4教科、2教科型の入試を行った学校の受験者数は全体では増えていません。ただし、例外もあります。男子校や女子校の最難関校である麻布や武蔵、駒場東邦、栄光学園、筑波大附駒場、女子学院や雙葉、フェリス女学院、横浜雙葉などは志願者数が増えました。また、開成や桜蔭もほぼ昨年並みの受験者数でした。
しかし、中堅クラスの学校で従来型の入試を実施した学校の一部では受験者数が減少しました。つまり、従来型の入試にチャレンジする受験者のうち最難関校を目指す層は、これまで通り一定数いるのですが、中堅校を目指す層の受験生は、多様化する新たな入試に流れたといってよいでしょう。
大学入試改革に対して不安を抱く保護者や受験生も少なからずいます。そういった層の多くは、大学付属校に子どもを通わせたいと考え、今年も各校の人気は続いています。
各大学付属校では、大学入試にのみとらわれることなく、独自の校風のもと、中学・高校の6年間、さまざまな勉強やクラブ活動ができるというメリットもあります。
それらを反映して、今年の入試でも、多くの大学付属校が受験者数を伸ばしています。たとえば早稲田実業や青山学院、立教池袋、中央大附横浜などです。なかでも東洋大京北は今年の入試で多くの受験者を集めました(ただし、各校ごとに、たとえば募集定員を減らすなどといった事情等があるので、すべての大学付属校で受験者が増えているわけではありません)。
従来型の4教科型、2教科型の試験とは異なる新たな入試スタイルとして、「適性検査型入試」があります。
今年の入試では、147校もの私立中学がこのタイプの試験を実施し、入試の総数は、「のべ287回」に達しました。一昨年が120校、昨年が136校だったことを考えると、来年以降も増えることは間違いないでしょう。
それは2月1日午前入試の実受験者数と、そのうち適性検査型入試を受験した人数からも判断できます。というのも、2月1日午前入試では難関校のほとんどが試験を実施しています。つまり、この日の午前中には、受験生は1校しか受験できないので、各校ごとに正確な受験者数をカウントできるのです。
表2を見ると、昨年は東京と神奈川での実受験者数は37,866名で、そのうち適性検査型入試を受験した人数は約3,700名でした。つまり、約1割の受験生が適性検査型入試を受けたことになります。
今年の入試では、実受験者数は39,638名で、そのうち適性検査型入試を受けた人数は昨年より増え、1割5分くらいの受験生がこの試験にチャレンジしていることが予測されます。
適性検査型入試を積極的に取り入れている学校は、凖難関校から中堅の学校が多く、冒頭で述べた大学入試改革に積極的に対応しようとする姿勢を明確に打ち出しているところが多いことは見逃せません。
同時に、自校で学んだ子どもたちが将来、社会に出たとき、さまざまな問題に対し自ら考え、生き抜く力を植えつける教育を目指そうとする学校が多いのです。また、適性検査は、首都圏の公立中高一貫校の一般選抜で採用されていますので、このタイプの入試を実施する私立中学では、公立中高一貫校を目指す受験生も取り込もうという意図もあります。
一方で最難関校でも、昨年、開成の国語で公立中高一貫校の適性検査に似た問題が出題されたことは注目に値します。また、同じ男子校では武蔵や麻布、栄光学園では昔から思考力を問う問題が出題されてきました。
つまり、今後は最難関校でも同じようなスタイルの問題が今以上に多く出題されることが予測できます。
では、実際に適性検査型入試で出題される問題とは、どういったものなのでしょうか。ひと口に適性検査型入試といっても、出題形式などは多岐にわたります。
たとえば教科の枠を超えた設問が与えられ、それを自分なりに解決する方法を探る思考力型もあれば、そのなかでも答えを導き出すプロセスを重視するPISA型というものもあります。
また、自分がこれまでがんばってきた分野、たとえば習い事など学校外での活動も含めた実績を、きちんと発表できる力を見る自己アピール型もあります。
最近では、新しい入試としてコンピュータの「プログラミング」を導入する学校も出てきました。たとえば、昨年から大妻嵐山が、今年から相模女子大が、プログラムソフトなどを使って作成したプログラムを実際に動かし、説明や発表などをするという試験をはじめました。
同校以外でも、これからの時代の重要なスキルとして、プログラミング能力を問う学校は、来年以降も増えていくと予想できます。
入試の多様化という意味では、「午後入試」に代表される入試スケジュールを増やす学校や、受験生が得意とする科目を選択して受験するタイプの入試を導入する学校が増加していることも見逃せません。
まず午後入試については、表2にあるように、今年の2月1日の午後入試には約21,300 名もの受験生がチャレンジしました。この人数は午前入試の受験生の半数を超えています。2月1日だけ見ても、午後入試の受験者数は、年々増加する一方です。
個別の学校の今年の午後入試を見ると、香蘭女学校では今年初めて2日午後入試を実施しましたが、700名を超える応募者を集め、大きなトピックスとなりました。
ほかにも、晃華学園(1日午後)や、普連土学園(1日午後)、山脇学園(1日午後)などの女子校で応募者数が軒並み数百名を集めるほど大人気となりました。
また、男子校でも2月1日の午後に、巣鴨や世田谷学園が算数1教科の入試をスタートさせ、いずれも数百名の受験者を集めるなど、入試の新設が盛んなのが特徴的でした。
得意科目選択入試を導入する学校も増加傾向にあります。
これにはさまざまなパターンがありますが、4教科のなかから3教科を選択するというものもあれば、英語を加えた5教科から3教科を選択するタイプもあります。また、前でも触れた算数1教科の試験を実施した巣鴨では多くの受験生を集めました。
さらに、ここ数年、英語入試を導入する学校が一気に増加傾向にあることも見逃せません。今年の入試では125校(私立124校、国立1校)と前年に比べ、13校も増えており、入試の実施件数も「のべ270回」となっています。
ここにきて英語入試を導入する学校が増えてきましたが、3年前くらいから山脇学園や桐蔭、東京都市大等々力、大妻中野といった人気校が次々と導入に踏み切ったことがはずみをつけました。その結果、現在では首都圏の私立中学入試で英語を選択して受験している受験生数は、2,000名ほどいると考えられます。
また、今年の入試から慶應義塾湘南藤沢では英語の選択も可能となりました。この結果、来年以降は多くの大学付属校でも英語で受験できるところが増えることが予想されます。さらに、今年の入試で英語1科目の入試を実施した学校が30数校にのぼりました。まだ少数派ですが、英語入試で、筆記試験を行わずに個別面接やグループワークを行うことで、リスニングとスピーキング能力を評価する学校も出てきました。
こういった試験が今後も増えると、街なかの英会話スクールで英語を話すこと聞くことのみを学んできた小学生にも私立中学受験の門戸が開かれることになるでしょう。
最後に、今年の入試を振り返ると、冒頭でも触れましたが、多くの学校で新たなコースの設置等に伴った入試の新設が数多く見られました。
なかでも、三田国際では将来、理系の研究者や医療従事者を養成することを目的とした「メディカルサイエンステクノロジークラス」を開設しました。同コースの募集人数は男女合わせて30名でしたが、そこに458名もの応募者を集めました。
また、武蔵野大(2019年4月、武蔵野女子学院より校名変更)では女子校から共学化に乗り出し、今後は海外の大学への進学も視野に入れた教育方針を打ち出しました。その結果、今年、3回実施した入試では軒並み100名を超える応募者を集めました。
宝仙学園共学部理数インターでは、さまざまなタイプの受験生を集めるために、今年の入試で、従来型や適性検査型入試、さらには英語入試など全部で16ものタイプの入試を実施し注目を浴びました。
ほかにも、中高を通じて英語教育に力を入れ、4年前にカナダと日本の両方の高校卒業資格を得らえるダブルディプロマコースを設置し、昨年共学化した文化学園大杉並でも、今年の入試で人気が出ました。
さらに、今年春に開校の埼玉県志木市の細田学園や調布市のドルトン東京学園でも、これまでにない新たな教育方針やメソッドを打ち出し、初年度の入試としては予想以上の応募者を集めています。
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ここまで見てきたように、首都圏の私立中学では、来るべき大学入試改革を前に、受験生や保護者に対して新たな教育スタイルやメソッドを積極的に取り入れることに積極的な学校と、これまでの大学合格実績を最大の武器とするブランド校(最難関校)の二極化が進んでいます。
また、一部の中堅校では、海外の大学進学を視野に入れて学校内の改革に乗り出すところも増えつつあります。
こういった状況に呼応するかのように中学受験のスタイルもかつてないほど増えていることも踏まえ、来年以降も慎重な学校選びをすることが重要となります。
今年春、埼玉県の公立中高一貫校としては3校目となる、さいたま市立大宮国際中等教育学校が開校しました。1月に実施された入学者選抜では、男女定員各80人のところに男子444名、女子566名の1,010名の出願者を集めました。今年の首都圏の全公立中高一貫校の出願者数は、前年に比べ約1,000名増えましたが、実質では、そのほとんどが同校の出願者で占められました。
同校の最大の特徴は、なんといっても首都圏内の公立の中高一貫校では初めて国際バカロレア機構(スイス、ジュネーブに本部を置く非営利団体)が認証する教育プログラムを取り入れる点です(開校後、段階的に認定申請予定)。プログラムに沿った授業を受け試験にパスすれば、国際的に通用する能力を証明する資格(国際バカロレア資格)として、大学入試では非常に有利にはたらきます。こういった点に多くの受験生や保護者が注目し、大人気となったのです。
志望校を選ぶ際に、近くに迫った大学入試改革を考えることも重要ですが、子どもが、10年後、20年後の社会に出て、きちんと生きていくための教育を受けられることがもっとも重要となります。同時に、その学校の校風や教育方針が子どもにいちばん合った学校を選ぶことも欠かせません。
それには、保護者や子どもが実際に多くの学校に足を運ぶことが必須となります。学校説明会はどこの学校でも実施していますが、それ以外の行事や体験講座などにも積極的に参加しましょう。
そういった情報を得るには、各校がホームページに加えて発信しているフェイスブックやツイッターなどを、日ごろからこまめにチェックすることが欠かせません。適性検査型入試も学校によって、その内容はさまざまですが、どういった内容の試験を行っているか、試験前に子どもたちに体験させている学校も多くあります。
かつては、中学受験は塾などに通って2~3年の受験勉強をしてきた子どもがチャレンジするものとみなされてきました。しかし、受験スタイルがとても多様化した現在、多くの子どもが自分の特技や得意分野を生かして私立中学受験にチャレンジすることが普通になりつつあることを保護者のみなさんにはぜひ覚えておいてほしいと思います。
プロフィール
北 一成(きた・かずなり)
中学受験界でのキャリア34 年。日能研、みくに出版『進学レーダー』編集局長等を経て日本Web 学校情報センターを設立。学校選びと合格へのアドバイスには定評がある。