2016-01-12

【連載】編集部注目の学校 徹底レポート 広尾学園
最先端のICT教育現場を大公開! 広尾学園ICTカンファレンス2015(後編)

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2015年12月15日に行われた「広尾学園ICTカンファレンス」は今年で3年目を迎える。ICT教育で最先端を走る広尾学園の取組みが情報共有される場とあって、約200名もの教育関係者・報道陣が集まった。前編に続き、後編(教員からの実践報告会、先生方の質疑応答)をレポートする。

広尾学園 教務開発部統括部長の金子暁先生

生徒数の減少から廃校寸前の危機に…その時選んだ「改革の道」とは?

広尾学園 教務開発部統括部長の金子暁先生が「実践報告」について、お話しされた。


広尾学園生徒数の推移

金子: 初めに、当校の歴史について少し紹介させていただきます。広尾学園は、1918年「順心女子学園」という女子校として開校しました。2007年に、校名を「広尾学園」に改称してからまだ8年の歴史しかありません。

1990年頃までは、1800人近い生徒を抱えた活気のある学校でした。しかし、1990年代後半から生徒数の減少により、廃校寸前という危機に直面した時期があります。2000年代に入ってからは学生定員数1500人の1/3である500人にまで減少しました。この生徒数では学校が存続できるはずもありません。そんな「どん底」としか言いようのない時期が8年程続きました。

今から振り返ると、当時、私たち教職員の前には2つの道がありました。1つはそれまでの自分たちの学校運営方針をさらに貫くという道。もしこちらを選んでいたら、当校は消滅していたと思います。もう1つの道は学校を完全に変えるということでした。本校の従来の考え方や仕組みなど、すべてを変えることでしたが、幸い、私たちはその「改革の道」を選択することができました。

生き残るための改革をした最初の数年間を「第1期学校改革」と考えております。その結果、3年後の2010年には定員数を回復させることができました。
しかし、「学校存続」を目指すだけではいずれ限界がくるのでは、という不安が生まれ始めました。そこで次のステージとして、「教育内容の高度化」に重きを置いた「第2期学校改革」をスタートします。ICT教育を導入したのもこの時期です。


最近の広尾学園学校見学

広尾学園には全国から見学者が来校するという。過去数か月間に来校した機関の名簿。最近の傾向としては、トップクラスの進学校やスポーツ有名校、海外の教育機関等からの見学が増加している。


四谷大塚 模試ランキング

「四谷大塚 模試ランキング」。学校改革後、広尾学園の評価は年々上がり続けている。「いまの保護者は『大学合格実績』プラス『学校が子供に何をしてくれるか』ということに着目し始めている。今後は学校の評価基準自体が変化していくのではないでしょうか」と、金子先生は説明する。


「教師の『都合』」「生徒の『未来』

金子: 現在、本校は学校説明会を年に5回程度行っていますが、1回につき約2000名以上の方々にご参加いただいています。しかし、こうした状況下でも、過去に学校存続の危機を経験した当校では、衰退がなぜ起こったのか、現在はなぜ評価いただいているのかを常に考え続けています。

学校改革に取り組む前の本校について、「教師の『都合』」「生徒の『未来』」を2つの円で示した構図に当てはめてみると、当初は前者を最優先に考えていました。つまり教員が実践したくない、実践したことがないことを避けていました。この傾向が強まると、学校は生徒の未来を考えなくなります。これでは学校が発展するはずはありません。生徒の未来のために何が必要なのかを追求することが最も大切です。教育の現場などで、「ICT教育の促進は難しい」といった話をよく耳にしますが、もし「教師の都合」が優先されているのが原因であれば、考え方の転換が必要ではないでしょうか。


広尾学園ICT活用の構造

現在、広尾学園には「医進・サイエンスコース」「インターナショナルコース」「本科コース」3つのコースがあり、「iPad」や「Chromebook」といった、利用しやすい情報機器をそれぞれ使用している。生徒は手元のICT機器から、校内のどこからでもWiFiによって「Google Apps for Education」「Moodle」や様々な信頼できるデータベース、論文検索などにアクセスできる。


教師の『都合』」「生徒の『未来』

マサチューセッツ工科大学(MIT)が世界に公開している教育ビデオ「MIT+K12 Videos」。以前は日本語訳がなかったが、インターナショナルコースに所属する高校2年生有志とAsuka Academyによるプロジェクトにより翻訳を実施。現在は日本語サポートつきのビデオとして公開されている。


「未来につながる人間」を育てたい

金子: ICTの導入については、教職員だけで行なうことは不可能だと私たちは考えます。実際、本校では、ICTに詳しい生徒の力を借りながら進めていますし、彼らの能力をどれだけ引き出せるかを重視しています。それは自ずと生徒の活動・活躍の場が増えることにもつながります。

先程、ファブラボ鎌倉代表・国際STEM学習協会代表理事の渡辺さんからお話しがありましたが、先日、本校の生徒がサポーターとして、Fab Learn Asiaに参加しました。希望制での募集でしたが、声を掛け合った生徒15,6人が集まり、最先端ものづくりのアジア大会の運営を支えました。こうした活動は、これまでは教員が設定していましたが、今回は生徒たちが主導となり活躍しました。企業も含め、生徒たちはまさに自らで動き始めたところだと考えています。

3年前(2012年)、このICTカンファレンスを初めて開催したとき、説明の最後で「テクノロジーだけでなく、人間性を高める教育を実践していくことが必要」と、お話しさせていただきました。その想いは現在も変わっていませんが、その一方で本校に入学してくる生徒たちに欠けている部分が徐々に見えてきました。生徒の多くは小学3,4年生頃から受験勉強で忙しい日々を送っています。その間、実体験する機会が少なかったであろう自然や多様性、文化、伝統等を、入学後どう提供するかを考えています。テクノロジーの最先端と人間の根っこの部分、この両方を融合させて育てることができたら、まさしく未来につながる人間に育つと私たちは考えます。


広尾学園ICT活用の構造

金子: 世界にはインターネットによって膨大な情報が流れています。こうした「情報爆発」の中で、生徒たちはその渦の中に飲み込まれたり、翻弄されることが大いに懸念されます。情報の活用法を知らなかったり、アクセスの方法がわからなければ「情報難民」になりかねません。本校では生徒たちを「ICT難民」にしてはいけないと考えています。そしてこれは今後の日本の教育の大きな課題の一つでもあるのです。


「医進・サイエンスコース」の3つの柱とは

広尾学園 医進・サイエンスコース マネージャー木村健太先生

広尾学園 医進・サイエンスコース マネージャー木村健太先生が実際の「教育現場」についてお話しされた。


医進・サイエンスコースが進める3本の柱

木村: 初めに「医進・サイエンスコース」について、ご説明させていただきます。
当コースは3つの柱を持っています。それぞれ「授業」「研究活動」「中高大・産学連携」を柱とし、カリキュラムを組んでいます。

医進・サイエンスコースのコンセプトは、生徒たちが中高6年間だけではなく、大学・大学院への進学、ひいては社会への進出後まで、将来を見据えた教育を行なうことです。生徒たちが将来、社会で活躍できる力を育成するため、いま何をすべきかということを基に、大学や企業等と連携しながら教育コンテンツを作り出しています。大学や企業との連携は生徒たちに「本物に触れさせる」機会を作るために生み出されたものです。

「研究活動」の中で、教員は生徒たちにハードルを課しています。それは「世界の誰も知らない研究テーマを設定する」ということ。学会や論文で報告できるレベルのテーマを立てるよう伝えています。そのためには、もちろん知識や技術が必要になりますが、それは真の目的ではありません。私たち教員は、生徒に“研究テーマにアプローチする方法”を学んでほしいと考えています。

ICTや英語は「研究活動」を支える「ツール」だと私たちは考えています。
研究テーマを設定するためには、自分が興味を持った問題について、現在どこまで研究が進んでいるかを知る必要があります。そのためにはインターネットによる検索が不可欠です。こうして探し出した査読を通った論文は、全て英語で書かれています。その内容を知るために、生徒たちは英語の授業に力を注ぐようになる。このように「授業」と「研究活動」がリンクします。当コースの教員は生徒に「答え」を教えないようにしています。我々が教えるのは「答え」ではなく、「情報の集め方」「信憑性」「ツール」「視点」「考え方」です。インターネットを使い、信憑性を担保する方法を伝えることを常に心掛けています。


Google Drive

ICTが生徒の「研究活動」を支える。「Google Drive」を利用すれば、プレゼン資料などを教員が時間・場所を選ばず、添削できる。


ウェブ上に溢れる情報は『答え』ではなく、『考えるための材料』


病理医という専門医に触れる

病理診断体験セミナーの様子。医進・サイエンスコースには医学部志望の生徒も多いが、病理医という専門医に触れる機会は少ない。病理医の話を聞いた後、検体を診断する現場に立ち会う。現場に立ち会うことで生徒は「本物に触れる」機会を得る。

木村: 「医進・サイエンスコース」ではICTを活用した「反転授業」を行っています。反転授業とは、生徒が事前に「講義」を受けてから、授業に臨むことです。生徒は動画の講義を前もって閲覧し、学校での授業では予習で得た知識を応用して、問題を解いたりディスカッションを行います。

また、どの授業でも共通していることは、生徒たちは、授業中に不明瞭なことがあると、その場でICT機器を使って調べます。ただし、私たち教師が生徒たちに伝えているのは「ウェブ上に溢れる情報は『答え』ではなくて、『考えるための材料』」ということです。


医サイの守・破・離

「医進・サイエンスコース」は今年度より中学にも設置された。中高6年間で、生徒たちにどういった教育を提供できるかを考えた結果、導き出された「医サイの守・破・離」。


生徒が学習時間を入力

生徒は、学習支援クラウドサービスを利用し、学習習慣を管理する。日々の勉強時間を入力することで、自身の理解につながる。


高2生の生徒たちから「Chromebook」の使い方を解説

「医進・サイエンスコース」コースでは2014年度から「Chromebook」を導入しているが、今年入学した中学生のために、高2生の生徒たちから「後輩にChromebookの使い方を教えたい」という声があがった。講習会の最後のスライドには「先輩を超えてください」という頼もしい言葉が。今後は生徒間の縦の絆も強くなって欲しいと木村先生は語る。


各教科担当の教員への質疑応答


各教科担当の教員への質疑応答

最後に、公開授業の担当教員への質疑応答が行われた。来場者からの質問をまとめ、コーディネーターの医進・サイエンスコースマネージャー木村健太先生から、各教科担当の教員に質問が投げかけられた。


■「Chromebook」の授業内外での活用法について。

・「Googleドキュメント」を利用してレポート作成するほかに、今年度は「Googleスプレッドシート」を使って、生徒に夏休みの計画や定期試験の結果を入力してもらい、共有した。最終的に1年の総括まで行なう予定。(医進・サイエンスコース中学1年生・担任)

・数学の授業では、生徒は授業中に疑問点があると、検索しながら進めている。最近生徒たちの間では、方程式を入力するとそれをグラフ化するアプリが人気のようだ。また、反転授業を行っているので、授業の前などに生徒が「Chromebook」を使って講義動画を視聴する姿が見られる。(医進・サイエンスコース高校1年生・担任)


■ICT教育の導入時、苦労した点は?またどのように利用しているか。

・現在の高1生は「iPad」導入初年度の生徒たち。その生徒たちが中1生のときは教員も含め、右も左もわからない状態だった。スタート時は「辞書」ツールを使い、徐々にメール活用など利用範囲を広げていった。「Keynote」(プレゼンテーション作成ソフト)や「Numbers」(スプレッドシート)いったスタンダードなアプリを導入する際は、利用方法は生徒に任せ、教員も一緒に考えていこうというスタンスをとった。自分自身、ICTについて、教員がすべてを教えるのは厳しいと考えていたので、我々も生徒から教わりながら進めた。現在は、「Google教員支援ツール」の「Classroom」を利用して、オンラインで宿題の配布・回収を行なってる。(高校1年生・英語担当)


■教材は共有されているか。教員間の連携は?

・中学では英語の教材をクラウド上にアップし、共有している。こうした教材を基に各教員が多少手を加えて利用している。(中学1年生・英語担当)


■各教科でのICT端末の活用方法について。

・英語では、日本人教員には教えるのが難しいとされる「音声学習」のシーンで活用している。生徒たちはICT音声教材を聞き、そのネイティブの発音を真似して学習する。(中学1年生・英語担当)

・インターナショナルコースの国語の授業に関しては、基本的に手書きのノートを使用しているが、本科コースでは単語の勉強に「iPad」を使用している。エッセイなどPCで入力したり、作文用紙に手書きするなど、使い分けている。(インターナショナルコース・国語担当)

・体育では、生徒同士で動画を撮り合っている。映像を見ることで、自分でイメージしているのと違う動きをしていることに気づかされたりしているようだ。部活動のシーンでも、とくに複数で行う競技では、全体のなかで自分がどういった動きをしているのかの確認に使っている。(保健体育担当)


■「iPad」などの使い方について、日常どのように指導しているか。

・我々教員もそうだが、人間は易きに流れてしまう傾向がある。単調でつまらない授業であれば、生徒も動画見たり、検索したり、授業と関係ないことに使いたくなることだろう。いま高1生の間で、「iPad」を必要なときだけ出して使用するか、常に使用できる状態にするかで議論になっている。利便性が落ちないように利用したいが、まだ答えは出ていない。(英語担当)


■校内のインフラやタブレット端末の保守について。

・「iPad」「Chromebook」といったタブレット端末の保守は、専門の担当であるシステムICT課が行なっている。また、現時点では各学年に1人担当者を設けて管理している。基本的に生徒が学校で使用する「iPad」については、iOSのアップロードやアプリのインストール等を全て一括で行っているが、いずれは生徒たちに管理を任せる範囲を増やすことも考え始めている。
ネットワークについては、ファイアウォールを設定し、セキュリティ対策をしている。
生徒が不適切なウェブサイトを閲覧できないようにするための、フィルタリングについては、現時点では「Apple」のフェイルタリングサービスを使っているが、今度どうするかは検討中である。(システムICT課・担当)


各教科担当の教員への質疑応答

最後に、来場者からの質疑応答では「ICT利用に関して保護者にはどう対応しているか」という質問が挙がった。これに対しては「4月の保護者会で、家庭でのルールを作るよう伝えている。緩いものでも厳しいものでも構わないので、ICTの使用に関して家族で考えるきっかけを持つようお願いしています」という回答があった。

また、卒業後の生徒のアカウントの処理やセキュリティに関しての質問が挙がると、「生徒が作成したアカウントは卒業後も残すようにしている。これにより卒業生と在校生が連絡を取り合うことができる。たとえば、研究データや合唱コンクールの動画といったデータ共有は先輩、後輩間でも可能。ただ、基本的にクラス内のデータ共有については権限を区切っているので、他からはアクセスできないようになっている。また、卒業後の生徒の校内ネットワークへのアクセスは不可にする処理をしている。USBメモリについては校内のICT端末に接続することを禁じている」と回答した。


このように講演者や広尾学園の先生・生徒らは、ICT教育の現状とこれからの教育の在り方について深く語られた。 集まった約200人の来場者にとって、数々の気づきを得る機会になっただろう。他の教育現場でも活かされることを期待したい。《 中高パスナビ編集部 》




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