2016-10-20

【連載】編集部注目の学校 徹底レポート
第9回 病理医と乳腺外科医による乳癌診断体験セミナー

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広尾学園中学校・高等学校は10月10日、「病理医と乳腺外科医による乳癌診断体験セミナー」を開催した。医進・サイエンスコースから高校1年~高校3年生の希望者31名が事前に乳癌を調べたレポートを提出後、この日の約9時間に及ぶセミナーに挑んだ。


広尾学園病理診断セミナー

広尾学園の医進・サイエンスコースでは「授業」「研究活動」「中高大・産学連携」の三つを柱としたカリキュラムが組まれている。三つ目の柱である「中高大・産学連携」では、医療や学術分野の第一線で活躍する人々の生の声を聞くチャンスが多く設けられており、最先端の“本物”に触れられる。

この日のセミナー講師は順天堂大学医学部附属練馬病院の病理医と乳腺外科医で、ティーチングアシスタントとして現役の病理医と研修医の5名がついた。実際の医療現場にいる方々から直接指導を受けられるという、貴重な機会であった。

広尾学園病理診断セミナー

セミナーの流れは、まず順天堂大学医学部附属練馬病院の乳腺外科医である小坂泰二郎氏から、乳癌の疫病と診断、治療について講義があり、その後同病院の病理医の小倉加奈子氏から、乳癌の病理(生検診断)の講義があった。

そして乳癌診断の実習と診断、プレゼンテーションの準備を各4~5人のグループに分かれて実施する。その後、講師7名と全参加者を前に、全チームが病理医としてカンファレンス(※1)を実施した。

(※1)カンファレンス…複数の医師が集まり、受け持ちの患者についての診断や治療法について検討すること。


実は、広尾学園にて開催された病理医のセミナーは今回が2回目であった。 2014年に開催された1回目は、大腸癌をテーマに手術材料を用いて病理診断のプロセスにフォーカスを当てて実習を行った。一方、今回は、病理医の仕事のうち、“癌の正確な確定診断を行い、どのような治療が効くのか患者の治療方針を決める”という部分にターゲットを絞り、セミナーが進められた。症例のサブタイプ分類を決め、患者に対しての治療を決めるという二段階で実習が進む。



広尾学園病理診断セミナー

乳腺外科医である小坂泰二郎氏の講義では、マンモトーム生検(※2)の実習に生徒らが挑戦した。 人体の変わりに鶏肉を用い、乳房内にできた病変をオリーブに見立てて、超音波画像を見ながらオリーブ内の組織を採取した。


(※2)マンモトーム生検…マンモグラフィーや超音波画像で病変を確認しながら針を刺し入れ、針の側面にある吸引口で組織を採取すること。


乳癌の病理(生検診断)について

「病理診断」とは、患者の細胞や組織を顕微鏡下で観察し、診断を下すことである。「生検」といって、腫瘍組織の一部を採取する検査で診断を行う。 細胞や組織を直接観察して診断をするため、癌の診断においては最終手段となり、これで手術や治療方針が決定する重要な診断である。

病理診断によって、その病気が良性なのか悪性なのか、もし悪性ならばどのくらい悪いのか、悪ければどんな治療が効くかが分かる。 この病理診断を行う専門医を、病理専門医(病理医)と呼ぶ。

病理医は、細胞を観察して「癌らしさ」を探す。いろいろな細胞の特長を一つひとつ点検しながら、これは悪性、これは良性と診断を見立てている。 つまり“見た目”だけで判断をするのが病理診断であり、最終診断なのに主観的であるのが特長だ。


広尾学園病理診断セミナー
病理医の小倉加奈子氏から「乳癌の病理(生検診断)」講義の様子

乳癌の病理診断は、癌の中でもっとも難易度が高いといわれている。 その理由は、乳癌以外の乳腺症と呼ばれる良性疾患と癌との識別が困難であることと、患者によって乳癌のタイプが様々で細胞の形も異なるため、判断に迷うからである。誤診も起こりやすく、医療訴訟も多い。

ただし、乳癌の治療は発達していることや、患者によって治療の選択肢がたくさんある。病理医がどのように患者の治療にかかわっているかを知ってもらいたいという目的で、高校生には難易度が高いテーマではあるものの、広尾学園の生徒たちに挑戦してもらったそうだ。

限られた時間の中で、正確な癌の診断と治療法を、広尾学園の生徒たちが考察する。 セミナー講師の先生方にとって、広尾学園の生徒たちの理解度の速さと深さ、洞察力は圧巻だったそうだ。


広尾学園病理診断セミナー

生徒たちが診断する項目に、「サブタイプ」「組織型」「NG」「ER」「PR」「HER2」「Ki-67」がある。 その診断方法・判定法を、小倉氏が解説した。これらすべての項目に対して、生徒たちが病理診断をする。


乳癌診断実習

実際に多いケースの乳癌患者の4症例をもとに、その患者の癌を診断して治療方針を検討する。

広尾学園病理診断セミナー

各グループには、担当症例のガラススライドやバーチャルスライド標本がセットされ、乳癌診断のための「乳癌取り扱い規約」が配布されている。


広尾学園病理診断セミナー

実習は、全4症例のバーチャルスライド標本を用いて診断を行うことからはじめる。 その後、担当症例のガラススライドを観察し、病理診断書を作成した。


広尾学園病理診断セミナー

担当患者の臨床データをみながら、患者の治療や予後、その他の検討事項を考えて、各グループで話し合い、方針を決定した。


広尾学園病理診断セミナー

乳癌カンファレンス

乳癌診断実習後に、実験室から会議室に移動し、カンファレンスを行った。 乳癌患者の4つの症例をもとに、その患者の癌を診断し、患者の背景を鑑みながら治療方針を病理医として検討するという、重大な役割を生徒たちが挑戦する。 パスナビでは、症例2ルミナールBの発表の様子を紹介する。

広尾学園病理診断セミナー

癌の診断をしたチームの代表の生徒は「がん細胞が発達している領域を拡大して見ると、硬癌に特徴的な、索状に広がるがん細胞やがん細胞の間に広がる間質の増殖が認められたために、硬癌と鑑別した。 核異形はNG3、HER2が陰性、女性ホルモンが陽性であることから、ルミナールAまたはBと推測した。Ki-67が強く出ていたために、ルミナールBと判定した。以上の結果から、ホルモン療法とそれにともなう化学療法の併用が一般的な治療法だと結論づけた」と報告した。

広尾学園病理診断セミナー

治療方針を検討したチームの発表では、次のような検討結果が挙がった。

「この患者はリンパ節への転移が見られていることから、抗がん剤の治療を薦めたい。ただし、抗がん剤治療の副作用は個人差があるものの、万が一寝たきりになってしまうと認知症の進行が懸念される。家族と疎遠なので一人で生活するのは困難と考えられるため、慎重に検討したい。
アロマターゼ阻害剤は副作用にほてりや関節の痛みなどはあるが、副作用は比較的少ないために採用したい。また、閉経後の乳癌の患者に対して、エストロゲンの合成を抑えて乳癌細胞を増殖させない作用もあるので有効と考えた。
放射線治療のメリットは、残っている可能性がある癌を殺すことや癌の再発リスクを減らすなどがある。一方、デメリットとして食欲減、吐き気腹痛などはあるため、患者の状態にあわせて治療のペースを決めていきたい。
なお、治療費はかかるが、後期高齢者医療制度の保険が適用されるため自己負担額は少なくすむはずなので、患者と相談しながら治療法を検討したい」

「ブリンクマン指数(※喫煙とがんの関係性を示した数値)が現時点で300で、400をこえると癌の発生率が高くなる。 同じペースであと5年間タバコを吸い続けると400を超えてしまう。また、喫煙しながら放射線治療を続けると、治療の効果が薄れる可能性が高くなるため、 患者にタバコをやめられないか相談したい」

「アロマターゼ阻害剤は1日1錠を5年間続けなければいけないため、認知症の方がきちんと飲み続けるのは管理が難しいと考えたが、 アロマターゼ阻害剤は“1日飲み忘れてしまった” “誤って2錠飲んでしまった”という場合でも副作用は少ないため、この薬は続けられると思う」

広尾学園病理診断セミナー

発表が終わると、次々と会場の生徒から質問が挙がる。

広尾学園病理診断セミナー

例えば「認知症の患者だと、通院は難しいのではないか。入院はできないのか」という質問が挙がると、 発表者から「この患者に限らず、高齢者で一人暮らしの方が全員介護施設に入れるわけではない。一人暮らしをしながらどう治療していくか生活スタイルを考えなければいけない。介護ヘルパーに定期的に訪問してもらい、薬を飲んでいるかのチェックしてもらう方法など検討している」 と回答した。

その他、「この患者は認知症や心筋梗塞のために薬を服用されていると想定できるが、今回の乳癌の薬を併用しても問題はないか」という質問も挙がり、深い議論が展開された。


カンファレンス後は、質疑応答、医師からの講評と優勝グループの発表があり、17時すぎにすべてが終了した。 朝8時から途切れることなく続いたセミナーに挑戦した31名。 現役の医師たちを唸らせた生徒たちの姿勢は決して偶然ではなく、日常の研究活動と授業態度の成果が現われていた。




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