芝中学校・高等学校には「すべての教科が主要教科」という言葉があります。大学入試に必要な教科のみならず、実技教科も大事にして、生徒たちにたくさんの経験を積んでもらうことで、人間としての成長を促す言葉です。
今年、新型コロナウイルスの影響で休校を余儀なくされた時期、美術や音楽の先生は思うに任せぬ状況でどういったことを考えたのか、そして学校が再開した今、どのようなことをしようとしているかについて、お話を伺いました。
「授業ができない」ことのつらさ
「休校の時は困りました。材料を自宅に配付し、画面を通じて授業を行なったとしてもたいしたことはできません…」と、磯貝健先生(美術科)はお話しくださいました。「作品創りを通してものづくりの楽しさとともに、その過程で積み上げてゆく喜び、忍耐力、粘り強さを味わって、人間的に成長してほしいという思いを生徒に伝えられない。そのことがとてもつらかったです」。新海洋先生(美術科)も深くうなずき、同じつらさをともにしたとおっしゃいます。
「外出自粛で生徒同士のつながりが薄くなった時こそ、音楽の力でそのつながりを実感してほしいと思いましたが、それができず残念でした」。「音楽はある意味、コミュニケーションと同じです。他者との音楽を通した関係性を大切にし、想像力を働かせて、楽しみながらアンサンブルに取り組むことを身につけてほしい。中学、高校ともに毎年プロの演奏家の方に生徒の前で演奏してもらうのですが、中止になったのは残念です」。鈴木太一先生(音楽科)、橋本武士先生(音楽科)も口をそろえます。
授業が再開して
「音楽は、アルコール消毒の面で使用できる楽器に限りがあります。また、飛沫感染、濃厚接触を避ける点でも苦労しました」。鈴木先生は新型コロナ禍以前、授業が実施できていた環境のありがたみをあらためて感じたそうです。橋本先生も「歌は音楽と声を通して直接つながることができます。いまは思い切り歌いたいですね」と、毎年行っていた合唱コンクールが中止になったことを踏まえてお話しくださいました。現在は中学性のバイオリンの授業は再開しています。
一方、磯貝先生は「特に苦労はなく、直接生徒の顔と作品を見てアドバイスできる対面授業はうれしかったです」とのこと。「分散登校が始まった時は、授業で冗談を言っても生徒の反応がなく静かすぎて困りました(笑)。これからも平和な状況下でものづくりができる幸せに感謝しながら、生徒を応援したいと思っています」と、力強い言葉が続きました。
鈴木先生と橋本先生も「これまでのような活動ができなくても『心のつながり』を感じながら演奏してほしい」「工夫次第で音楽に触れられる方法はいろいろと編み出せる。生徒達にはそういう姿勢をともに学んでほしい」と、生徒への期待を口にしました。「人類が苦難を乗り越えて、長い年月が経ってもなお色あせず、音楽が世界中に存在していることは、それだけ音楽自体に大きな価値があるということだから、生徒が音楽とふれあう機会をたくさん作りたいと今後の授業を見据えています」と、締めくくっていただきました。
芝の生徒たちがこれからの音楽や美術授業を通して、人間としてより広く深く、大きく成長してゆくことを楽しみにしたいと思います。