(A)妹を怒鳴りつけるのは、やめなさい!
(B)M子ちゃん!あなたが妹を怒鳴ると、おかあさんは静かに仕事ができなくて困るのよ。
(C)テレビの音がうるさくて、イライラしたのね。
では解説を読んでいきましょう。
(A) は、M子にやめるよう行動を指示(命令)しています。(M子は自分が理解されていないと感じ、反発を招きます)
(B) は、M子の行動が親に影響を与えていることと、困っている親の感情を伝えています。
(C) は、母親がM子がイライラしていることに気付き、なぜ妹に対してどなったか、M子の立場に立って理解しようとしています。
それでは、(C)のパターンによる、その後の会話を見てみましょう。
M子:(妹に対して)「テレビばかり見ていちゃいけないって、いつもお母さんが注意しているでしょ!ほらっ、勉強しなきゃだめだよ。宿題はないの?」
母:「テレビの音がうるさくて、イライラしたのね。」
M子:「だって、ずっと大きな音がして、勉強できないんだもん。」
母:「ずっと大きな音がして、勉強ができないのね。」
M子:「だから、妹に注意したんだよ。」
母:「それで、妹に注意したのね。」
M子:「そう、ちょっと怒鳴っちゃったけど…。」
母:「思わず怒鳴っちゃったのね。」
M子:「…テレビの音が気になって勉強に集中できないって妹に話してみようかな。」
母:「怒鳴らないで話してみようと思うのね。」
いかがでしょうか?
親は、「怒鳴っている」子どもの行動に対して反応してしまい、「やめなさい」と命令してしまうことが多いでしょう。しかし苛立っていたM子は母親に聞いてもらうことで自分の気持ちに気付き、何がイヤなのか見つめ、行動を反省する態度が見られました。
怒鳴るほど気持ちを荒立てているM子の話を、親は能動的に聞くことで理解すると同時に、気持ちを整理する手助けをすることができます。
親と子は別個の人間です。それぞれに都合があり、欲求があり、価値観があります。親がいかに子どもの話を聞き、自分のメッセージを伝えたとしても、問題を解決できないこともあります。親業ではそれを「対立」と呼んでいます。
親子の間に欲求の対立が起きた時の解決法には、大きく分けて3つあります。
(1)親が勝ち、子が負ける(親が解決法を決め、子がそれに従う)
(2)子が勝ち、親が負ける(子が解決法を決め、親がそれに従う)
(3)子も親も満足する解決方法を見つける (民主的な方法)
多くの家庭では、親子の欲求の対立を(1)(2)の“勝負あり法”で解決しています。親業では(3)を“勝負なし法”と呼び、両者とも負けない対立の解決方法を紹介し、奨めています。
“勝負なし法”は、親子で話し合って合意した解決策を通じて、親と子の対立の解決を図るものです。
たとえば、親子でテレビを見る時を想像してみましょう。親はニュース番組を見たい。一方、子どもはバラエティー番組を見たい。そんな時、「それでは、間をとってドキュメンタリー番組を見よう」とはなりませんし、それではお互い満足できないでしょう。
親はわたしメッセージ(第2回で紹介)で自分を語り、子どもの言い分は能動的な聞き方(第1回で紹介)で確認をしながら以下のような6つのプロセス(段階)を踏んで話し合いを進めます。
(1)問題を明確にする 同じ時間帯に違う番組が見たい。(欲求が対立している状態。)
★なぜその番組を見たいのか、どんな欲求があり、どう対立しているのかを話し合いながら具体的に項目であげて、お互いの欲求を明らかにします。
→例:親…7時のニュースがわかりやすいので今日の話題を確認したい。7時に見たい。
子…明日学校で、友だちと話題にするので、バラエティー番組を必ず見たい。自分の好きな番組をゆっくり見たい。
(2)考えられる解決策を出す
★できる、できない等の評価をせずに、お互い思いつく限りアイデアを出していきます
→例:別の部屋で見る、テレビを見るのをやめる、30分ずつ見る、もう一台テレビを買う、一週間の番組表を作る。親が録画する、子が録画するなど。アイデアを紙に書き出し、一覧表にすると良いでしょう。
(3)それぞれの立場から、解決策を評価する
→別の部屋で見る(親×、子○)、テレビを見るのをやめる(親○、子×)、30分ずつ見る(親○、子×)、もう一台テレビを買う(親×、子○)、親が録画する(親×、子○)、子が録画する(親○、子○)、番組予約表を作る(親○、子○)など…。
(4)双方が納得のいく解決法を決定する
→子が録画する(親○、子○)に決定。
(5)解決策を実行に移す
→子がバラエティ番組を録画し、その日の都合のよい時間にみることにした。
(6)結果を評価する
一定期間(例:1週間)生活の中で実行してみて、不都合はないか確認をするための話し合いをする。
子どもは、解決策を考える力を持っています。お互いの欲求、対立点が何なのか、具体的なことが明確になると、それを解決するためのびっくりするような素晴らしいアイデアが子どもから飛び出すこともあるでしょう。親子でいろいろ意見を出し合ってみると、この段階で「何でも言えるのが楽しかった」と感想を持つ子どもも多いものです。
“勝負なし法”で大切なのは、親が一方的に指示や命令することで子どもが我慢したり、親が子どもの言いなりになって我慢するのでもなく、話合いを通じて子どもも親も、お互いの意見を尊重する過程なのです。
双方が納得して解決策を考えれば、それを監督する必要もなく、どちらかに恨みが残ることもありません。
以上、「対立を解く」ためのレッスンでした。
次回は、全4回にわたる連載の最終章です。“親業”メソッドのまとめと、「お決まりの12の型」についてお届けします。また、子どもが思春期になり、恋愛に興味を持ち始めて勉強に身が入らない…そんなケースもご紹介します。
内山睦美(うちやまむつみ)
親業訓練インストラクター
都内を中心に親業訓練講座、講演を行っている。また、読み聞かせを通じ地域の子育て支援活動に参加。幼児教育にも関わる今、親業で自分も周りも満足できるコミュニケーションの輪を広げるのが目標。中学、高校生の母。