2010-04-17

パスナビ スペシャルインタビュー
作家/多摩大学経営情報学部教授・樋口 裕一さん


樋口 裕一さん

作文は一種のエンターテインメント。
基本となる「型」を教えてあげれば、子どもたちの想像力は膨らみます

ベストセラー『頭がいい人、悪い人の話し方』でおなじみの樋口裕一先生は、小論文指導の第一人者であり、主宰する塾では小・中学生にも独自の理論に基づく作文指導を行っています。作文・小論文の基本となる四部構成の「型」を中心に、様々なエピソードを交えながらアドバイスをいただきました。ビギナーにお薦めのクラシック音楽セレクションなども併せてお読みください。


※インタビュー【作家/多摩大学経営情報学部教授・樋口 裕一先生】(前編)はこちら

生徒の言うことを否定しないでください


――ところで、先生ご自身は文章力をどのように磨かれたのですか。

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それは3つあると思います。1つはラブレターを書いたこと。勇気がなくて出さなかったけれども、たくさん書きました(笑)。2つ目は、学生運動が盛んだった時代にビラのようなものをやたらに書いていたことです。3つ目は翻訳の仕事をしたことで、文章力が付いたのはこれが一番だと考えています。翻訳というのは、日本語をいじる作業なんですね。基本的にはフランス語のものを日本語に訳していたのですが、笑わせようと思って書いている文章を、そのまま日本語に訳しても誰も笑わない。笑わせるためにはどうすればいいのかを一生懸命に考えるのですが、言葉を1つ変えることによって笑ってくれたりするんですね。日本語というのは語彙が非常に豊かであって、オーソドックスな言葉と砕けた言葉の範囲が広いので、その中から選んだ言葉によって相手に与える雰囲気が全く違ってきます。それは日本語の特性かなと思っています。また、YesとNoをハッキリさせないのは、悪い面での日本語の特性ですね。作文や小論文を書くときに「型」を教えているのも、あいまいにしないためです。型どおりに書いていけば、日本語の欠点というのはある程度避けて通れるような気がしています。

――最後に、作文指導に関してアドバイスをお願いします。

作文というのはどうしてもエンターテインメントと思わずに、教育だと思われている方がいます。そうすると道徳的な指導が入ってしまったり、言葉の文体をいじるだけで終わってしまったりします。もちろん文体をいじるのも大事なことなのですが、子どもはなぜ直されたのかが分からないんですよ。私は添削指導で学校を訪れた際には、「あなたの考えは間違えている」と否定するのではなく、「あなたの言うのは正しい」という態度で生徒に接してほしい、と先生方にお願いしています。その上で、「そういうことを言いたいためにはこういうデータや根拠が不足しているので、そこを補ってから書きなさい」という指導をすべきだと言っています。そのようなテクニックの不足を指摘するのが一番大事です。また、先ほどからお話している「型」の重視ですが、生徒が書いた文章が型どおりになっているかどうかをチェックするだけでもいいと思います。特に小論文の場合は、論理構造と論理手順が基本なので、そこがずれて型を守れていないということはすなわち、論理がずれているということになるからです。型をきちっと守っているかどうかをチェックすれば、その文章が論理的に書けているかどうかということにつながります。そのチェックだけはしてほしいですね。

――貴重なアドバイスをいただき、ありがとうございました。


樋口裕一先生お薦めのクラシック音楽


小学校5年生の頃からクラシック音楽に親しんできたという樋口先生は、音楽評論家としても活動されています。子どもたちが豊かな感受性と表現力を身に付ける上では、名曲に触れる機会を作るのも大切なことでしょう。そこで、ビギナーにお薦めのクラシック音楽セレクションをしていただきました。お薦めの文学作品と併せてどうぞ。

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取っ掛かりとしてお薦めしたいのはロッシーニの「ウィリアム・テル序曲」です。10分ぐらいの曲ですが、大抵の子どもたちは喜びます。それとヨハン・シュトラウス。この二人の作曲家はとっつきやすいし、とりあえず楽しいと思います。ヨハン・シュトラウスの曲で一番楽しいのは「こうもり序曲」なんじゃないかな。「こうもり」はオペレッタなので、できれば全曲を観たり聴いたりすると絶対に楽しいと思います。ただ、男女のいざこざの話なので、多少刺激が強いかもしれませんが、5年生くらいになったら大丈夫かと思います。

これだけで終わったらつまらないので、そのあとはベートーヴェンとモーツアルトに進みましょう。本当はバッハと言いたいのですが、子どもにはちょっと難しいかなと思うので。ベートーヴェンはまず、交響曲第5番の「運命」でしょうね。第6番の「田園」も最初に聴く曲としては良いと思います。それから第9と、「のだめカンタービレ」で有名になった第7番。ピアノソナタでもいいのですが、子どもには単調だと思うので、まずは迫力ある交響曲を聴いてごらんということですね。モーツァルトは「キラキラ星変奏曲」から入り、「フィガロの結婚序曲」や「ドン・ジョヴァンニ序曲」といったオペラの序曲を聴くと良いでしょう。それからセレナードにも「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」など、非常に親しみやすい曲がたくさんあります。

もう一人挙げるとすれば、チャイコフスキーですね。まずは「くるみ割り人形」。個人的には好きではありませんが「白鳥の湖」。それから交響曲第5番と第6番の「悲愴」。小・中学生でも十分理解できると思います。

私の場合は最初に音楽が好きになったのがキッカケで「ベートーヴェン物語」から読み始めたのですが、本も自分が興味のあるものから入るのが一番いいと思います。イチロー選手が好きなら「イチロー物語」のようなものでもいいし、サッカーのテクニック集でも構いません。小学生の男の子は冒険もの、女の子はホラー好きという傾向があるようですね。中学生になったら文学作品を読んでほしいと思います。

文学を読む場合には知的レベルに差があるので難しいのですが、ちょっとませた子を想定して言いますと、日本文学では太宰治がいいんじゃないかな。「走れメロス」から始まって、最終的には「人間失格」まで読むと、十分に太宰文学が理解できると思います。それと宮沢賢治でしょう。何か道徳っぽいところがあるのは気になりますが、とにかく言葉が美しい。「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」などがお薦めです。海外ものではスチーブンソンの「宝島」などから入って、できればドフトエフスキーの「罪と罰」に挑戦してほしいですね。私も確か中1か中2の頃に、子ども向けに短くしてある「罪と罰」を読んで、あまりに面白いので元の長い本を読んだ記憶があります。

クラシックを聴くにしても本を読むにしても、同じことに興味を持っている仲間を作ると良いと思います。その仲間同士で「この曲は迫力があるよ」「この小説のこんなところが面白い」などと語り合うことが大事です。これも1つの発信力になりますね。


プロフィール

樋口 裕一(ひぐち・ゆういち)

作家。多摩大学経営情報学部教授。「白藍塾」塾長。1951年、大分県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。立教大学大学院博士課程(専攻はフランス文学)修了後、翻訳業を行いながら、予備校講師として教壇に立ち、大学入試小論文の指導にあたる。1991年に独立し、小学生から社会人までを対象とした小論文・作文通信指導塾「白藍塾」を設立。主な著書は、『ホンモノの文章力―自分を売り込む技術』、『ホンモノの思考力―口ぐせで鍛える論理の技術』(以上、集英社新書)、『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)、『頭のいい人の「自分を高く売る」技術』(角川書店)、『笑えるクラシック』(幻冬舎)、『樋口裕一の子どものやる気を伸ばす父親のひと言』(旺文社)など。そのほか翻訳書、学習参考書など多数。近刊に、ヴァーグナーの音楽と思想から近代文明の本質を解き明かした『ヴァーグナー 西洋近代の黄昏』(春秋社)がある。




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