2015-08-12

グローバル時代に必要な英語教育とは
関東学院大学教授・金森強氏インタビュー

小学校における英語教育が大きな転換期を迎えようとしている。文部科学省は2020年度までに、現在5年生から必修化されている「英語活動」を3年生に前倒し、5・6年生は成績がつく「教科」に変更する予定だ。

英語教育の早期化は子供たちにはどのような影響を及ぼすのだろうか。また、親が心掛けるべきことはあるのだろうか。長年にわたり小学生の英語教育の現場に関わってきた関東学院大学国際文化学部英語文化学科教授・金森強氏に伺った。

笑顔の金森強先生


前倒しの教育は、英語嫌いの子を増やす可能性がある


「わが子に早くから英語を習わせれば、苦労することなく流暢に話せるようになる」と期待している人は多いのではないだろうか。実際、小学校英語は日本人の英語水準を上げるツールとして大きな注目を集めている。

しかし、金森氏は「いたずらに英語教育を早期化すればよいわけではない」と釘を刺す。それどころか、教育の方法を間違うと、「英語嫌い」の子供を増やす可能性さえあるという。

「私が危惧しているのは、小学校での英語の授業が『中学校の前倒し』と捉えられてしまうこと。実際、これによって英語嫌いの子が増えた例があります。ある県のアンケート調査では、中学校1年生の4月の時点で90%以上の生徒が『英語が嫌い』と回答していました。1年生の時点で英語嫌いということは、中学校での授業の影響ではなく、小学校時代の影響が大きいのではないかと考えた。そこで、小学校の授業を見学してみたら、中学校の前倒し教育を行っていたんです。現状、小学校での英語の授業は週1回ですから、翌週になれば大半の子が前回の内容を忘れてしまっています。それなのに、カリキュラムをこなすことを重視するあまり、しっかり復習をせずに先へ進むので、子供たちはどんどん理解できなくなってしまうのです」

今後、小学5、6年生の英語を正式な教科とするにあたっても、同様の事態が起こりうると金森氏はいう。

「リーディング、ライティング、スピーキング、リスニングの四つのスキルのうち、小学校5、6年生ではおもにスピーキングとリスニングを中心に勉強する予定になっています。学習時間はおそらく週2回ほど。中学校の週4回に比べると授業時間は半分になりますが、反復が少ない分、定着力は半分以下のはずです。それなのに、5、6年の2年間で、中学の授業と同じような感覚でスピーキングとリスニングの基礎をつけること自体に無理があるように思うのです」


「聞く」「話す」能力の重要性が高まる


また、学校だけでなく親も英語に対する認識を改める必要がある。というのも、親世代が経験した英語環境と子供たちが将来置かれるであろう環境は大きく異なっているからだ。

「今後は、親の世代が受けていた英語教育では身につかない能力が必要とされる時代が到来します。たとえば、近年ではリスニングだけではなく、スピーキングを入試に導入しようとする大学も出てきました。これまで技術上スピーキングテストの実施は難しいと言われていたのですが、同様に実施が難しいとされていたリスニングテストは、すでにセンター試験に導入されている。そう考えるとスピーキングテストも今後広がって行く可能性は高いでしょう。また、国家公務員試験でもTOEFL等の外部試験の活用が始められようとしているのです」

つまり今後は、『聞く』『話す』の能力がこれまで以上に必要とされるようになるということだ。最近では中学受験でも英語入試を実施している私立中学もあるが、スピーキングやリスニングがなければペーパー試験の対策のみに専念することになるだろう。しかし、それは残念ながら将来につながる英語力ではないというのだ。

「子供の将来のことを考えるのであれば、音声をたっぷり使って英語を聞く、話す機会を設けることです。だからといって、英語塾や英会話教室に通わせれば誰もが話せるようになるわけでもありません。そもそも、週に1、2回英語を勉強しても、すぐに話せるようになどならないのです。でも、親は早く成果を求めてしまいがち。もし、英語塾に通っている子供が家庭で『今日This is a penと習ったよ』とフレーズを披露したとしても、それは英語が話せるようになったのではなく、フレーズを丸暗記しているにすぎません。また、読み書きならば上達の成果が見えやすく、親も安心する。塾や英会話教室が読み書きやフレーズの暗記中心の内容に傾きがちなのはこのためです」

語る金森強先生


英語は暗記科目ではない―相手を想い、コミュニケーションを図ることが大切


言語の学習は暗記をすることではなく、「コミュニケーション能力を育てること」だと金森氏は語る。つまり、暗記型の学習法だけで真の英語力を養うのは至難の技といえるだろう。

「その点では、子供の英語教育現場でよく用いられているチャンツ(英語の話し言葉をリズムに乗せて表現したもの)も、根本的な英語力の向上につながるとは言い難い。チャンツは覚えやすいのですが、実際の英語のリズムとは異なります。それに、リズムによって覚えた言葉を反復するにすぎないので、実際のコミュニケーションの現場では生きないのです。

ある英会話教室を訪問した際、子供たちが『What is your name?』『How old are you? 』と畳み掛けてきたことがありました。きっと、初対面の人にはこれらのフレーズを言うように教え込まれていたのでしょう。しかし、本来のコミュニケーションでは、相手の名前を聞く前に自分が名乗るのが礼儀ですし、いきなり年齢を聞くのは失礼ですよね。挙句の果てに、私が自分の名前を返答したにもかかわらず、彼らは『What is your name?』と尋ねることだけに必死で私の名前を覚えてくれていませんでした(笑)。これでは、コミュニケーション能力があるとは言い難い」

小学校時代に必要なのは、フレーズをたくさん暗記させるよりも、「英語が通じた」という喜びを体験することだという。学校でALT(外国語指導助手)と交流し、自分の発した言葉が通じた瞬間は、子供たちにとっては大きな感動につながるというのだ。また、様々な状況に応じたコミュニケーションの方法を覚えることが、将来的に英語力を伸ばすことにつながるという。

「たとえば、『Where do you want to go?』というフレーズを話すケースを考えてみましょう。『どこに行きたいの?』と尋ねる際、相手が誰であるかによって話し方やスピード、声のボリュームは変わってくるはずですよね。  ある授業を見学した際、非常にゆっくりこのフレーズを話した子がいたのです。それは、相手がお年寄りであることを想定していたから。耳の遠いお年寄りに聞こえやすいように、その子はあえてゆっくり話したのです。このように様々なシチュエーションを想定させて、その場に即したコミュニケーションができることが重要なのです」

グローバル人材には、「相手を想う心」が不可欠だ。相手に応じて話す言語やスピードを変え、相手の国の文化に気遣いながら振る舞えることが大切だと金森氏は力説する。

「たとえば、日本人にとっては音を立てて蕎麦(そば)をすすることは当たり前ですが、それが不快だと感じる国の人もいますよね。相手の立場に立って物事を考え、行動できる人こそがコミュニケーション能力が高い人なのではないでしょうか。日本人はネイティブのように英語を話せないことを恥じる傾向にありますが、相手に伝わるように心をこめて話すことこそが大切なのです」


英語を聞き流しても、話せるようにはならない

コミュニケーション能力を高める上で第一に必要なのは、「相手の話を聞く力」だという。では、子供に聞く力を身につけさせるために親が出来ることはあるのだろうか。

「まず、考えながら聞く習慣、つまりアクティブリスニングを日本語でする習慣をつけさせます。そのためには、親が話す前に子供の話をじっくり聞いてあげること。話し終わった後ならば、子供に聞く余裕が生まれるからです。その後、親の話を聞かせるのですが、その際に『次はどうなったと思う?』と話の展開を予想させたり、『今までの話どうなっていたっけ?』とまとめさせることがポイントです。これにより、アクティブリスニングが起き、頭の中で話を映像化する能力が育ちます。こうしてアクティブリスニングの習慣が身につけば、英語を学ぶ際にも必ず役立つはずです」

また、親が英語を教えるのであれば、子供が興味を持っていて、内容を理解できているものをたくさん聞かせることが大切だという。

「DVDなどを見せ、“英語のシャワー”を浴びせ続けていると自然と話せるようになる、というのは幻想だと私は思っています。というのも、映像を見ているだけでは内容が身につかないことは実験で証明されており、英語のシャワーは文字通り流れていくだけなのです。たとえば絵本を見せながら、『Is this yellow?』(これは黄色かな?)などと親が英語で問いかけて、実際にコミュニケーションを図ることで、いつの間にかインプットされ、それをまたコミュニケーションの中でアウトプットしていくことで言葉は定着していくのです」

さらに今後は、進学先としての中学・高校の選択にあたっても、英語教育は大きな要素となるだろう。子供をグローバル社会に羽ばたく人材に育てたいのなら、大学の合格実績だけで判断せず、志望校で将来に役立つ英語教育が行われているのか調べておきたいものだ。

「ヨーロッパでは、国によっては子供でも2~3言語を操っています。今の日本の子供たちは、将来このようなヨーロピアンと同じグローバルステージで働くことになる。受験に照準をあわせた英語学習では、大学生や社会人になった時にグローバルステージで通用しなくなってしまうでしょう。目先のことだけではなく、長期的な展望を持って取り組む心構えを忘れないでいただきたいと思います」  

語る金森強先生




■ 金森強先生 プロフィール

1960 年長崎生まれ。横浜国立大学大学院修了。関東学院大学大学院文学研究科・国際文化学部英語文化学科教授。
中央教育審議会外国語専門部会の元委員。日本児童英語教育学理事・小学校英語教育学会理事・日本英語音声学会理事等を務める。専門は英語教育、英語音声学。

※「グローバル教育特集」の連載一覧はこちら




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