会場から多かった質問を中心に、全登壇者のパネルディスカッションが行われた。
―2020年から実施が予定されている新テスト「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」について、民間の資格・検定試験の活用はどの程度になるのでしょうか。
齋藤氏(文部科学省): 高大接続システム改革会議「最終報告」の公表(2015年3月31日)に、評価テストのアウトラインが示されています。この中で、基本的に大学の英語の入試に関しては「4技能を評価する」と明示されおり、実施可能性について検証する、とあります。例えば、スピーキングに関しては民間の試験でもコストがかかるものなので、それを共通テストとして行うことは可能かなどの検証が必要ですが、原則は4技能を導入する予定です。
そして、民間の資格検定試験との「連携」のもとに実施するとなっています。しかし、「連携」の具体的な内容はまだ決定していません。大学入試センターの下で民間のノウハウを活用する方法から、既存の資格検定試験を大学入試センター試験の代わりに活用する方法まで様々な可能性がありますが、2016年度末までに新テストの実施方針を決定する予定なので、決定できるように文部科学省として努力します。
伊呂原氏(上智大): 2020年度新テストを先取りする形で実施しているのが「TEAP」で、本学ではすでに動いているという認識です。それ以外の教科についても、論理的思考力を問う、時間が許されれば面接等を通じて人物を見るべきだというのが基本方針です。現状、本学はセンター入試に参加していません。今後、評価テストがどうなるかがはっきりしてきた段階で考えたい。
松本氏(立教大): 大学入学希望者評価テストで4技能テストが導入されることを期待しています。
安藤氏(早稲田大): 大学入試を変えることで、高校も4技能に変わっていくのではないかと感じます。
―4技能の教育的な意義とは何か―。大学で4技能は本当に必要なのでしょうか。
伊呂原氏(上智大): 私が所属する理工学部では、研究室に入ると、日本語ができない留学生がたくさんいます。日本にいても、国際会議で発表、論文を書く機会があります。文系であっても、英語で国際法やビジネスを学ぶ機会があります。4技能があった上で入学していただき、実践的な教育を通して真の実力をつけて社会に出て欲しいと考えています。
安藤氏(早稲田大): 今では、中高から英語の授業で翻訳に時間をかけることは少なくなりました。大学の授業も、私の学生時代は翻訳が主だったのですが、これは日本語でアウトプットするための訓練です。これからの学生は、自分の思考の結果を英語でアウトプットすることが当たり前に求められるようになります。
―大学が求める学生像を教えてください。
松本氏(立教大): 私はグローバル教育センターで仕事をしている関係上、海外インターンシップあるいは国際ボランティア希望者に面接をしています。幼少期から学校で『課題基盤型学習』を体験している(自分から課題をみつけて、自分で調べて学習をする)学生や、早くから英語を習っている学生、高校時代にプレゼン、スピーチやディスカッションを体験している学生は、海外研修プログラムの“中身”に興味を持ちます。しかし、そうではない学生は、“英語を学びたい・英語力を上げたい”というレベルに留まります。
スーパーグローバルハイスクールやスーパーサイエンスハイスクールに採択されているような学校が実践している教育が広まると良いと感じます。つまり、高校時代に『英語で生徒たちが取り組むプロジェクト』を出来る限り与えていただきたいです。先生方が教えきるのではなく、生徒が課題を見つけ、グループ学習をして英語でプレゼンを体験している生徒を、本学は望んでいます。
伊呂原氏(上智大): 問題発見ができる学生が、求める学生像です。真の問題を発見して、解決して、世界を変えていく「発信型グローバル人材」を育成したいと思っています。 問題解決能力が高い生徒はいますが、“何が真の問題なのか、何を取り組むべきなのか”が大事です。人に直接会って、現場に足を運ばないと、真の問題は発見できません。そのためにはリーディング・リスニング力とともに、自分が考えたことを発信するためのライティング・スピーキング力が必要なのです。
―4技能はどうなるべきかなど、今後の展望をお聞かせください。
齋藤氏(文部科学省): 個人的な見解ではありますが、4技能を導入していくことが、正しい英語教育の方向に導くシグナルになると感じています。なるべく多くの大学にバランスのとれた育成を取り入れていただき、高校でも指導に取り入れていく方向になればと感じています。
伊呂原氏(上智大): 入試形態には多様性が必要です。色々なタイプの学生が入学することで、様々な議論が起きます。社会の変化を見て、入学後の学生の学力を分析して、段階的に少しずつ大学入試を変えていく予定です。
松本氏(立教大): 個人の意見ですが、一般入試の比率を下げたいです。一日で終わるテスト、しかも一点刻みで合否が決まるという現状の入学者選抜システムを改善したいです。
大学の使命としては、なぜ4技能を導入するかのビジョンをはっきりさせるべきで、大学が提供する学習体験やプログラムの内容を説明しなければならないと感じています。 そして、高校の進路指導の先生方には、大学入学後にどのような教育が展開されるのかを、今まで以上に研究していただきたいです。例えば、立教大学においても、学部によって英語で授業をする比率など異なります。我々大学も授業公開や情報発信をしますので、進路指導の際に高校生へ伝えていただきたいと願っています。
安藤氏(早稲田大): 学内には、受験料収入に頼らないような大学財政を確立したいという意見もあります。私学は経営上の問題があるのですが、それを乗り越えて、高校の学習を反映した本来の形の試験にすべきだと考えています。高校できちんと学びさえすれば、大学にも受かる、そういう時代にしたいと願っています。
今、学生は4技能にわたって英語を使いたがっています。それを止めるのが教員であってはいけない。言語教育として「4技能」という当たり前のことがこれまで出来ていなかった。本来の英語教育ができる時代を目指して、皆様とともに頑張りたいと思います。
伊呂原氏(上智大): 4技能はあくまで導入であり、スタートです。4技能ができる学生に対し、いろいろなカリキュラムを用意し、卒業後も世界とつながれるような教育体験を大学側が用意すべきだと思います。
本学は2016年度に4技能入試を導入しましたが、志願者が減ってしまいました。それにも関わらず、次年度も導入します。受験料収入ではなく、良い学生を輩出したい。日本の中等教育を、英語教育全体を変えたいという強い意気込みで進めたいです。
■ TEAP受験状況
2015年度は、3回の試験を11都市の会場で実施した。受験資格は高校2年生またはそれ以上の年齢としている。申込者数は3回合計で13,126名、前年比約30%増であった。
申込者の約6割が東京都で、神奈川、埼玉、千葉と続くように首都圏が多い状況であったが、「ほぼすべての都道府県から最低1名の申し込みがあったことから、全国的に外部試験の活用に対する意識が高まってきているのでは」と松平氏は語る。
申込者の男女比は3回の試験とも女性が多く60~65%であったが、男性の割合は回を重ねるごとに増えた。リピーターの受験者も多く、取得スコアはCEFR(※) B1(英検2級相当)に約77%と一番集中していた。今後、外部試験を活用される大学が増えていく中で、受験者層のトレンドがどう変わっていくのか注目が集まる。
■ 2017年度入試における英語外部試験の主な活用方法
現状、採用大学数が一番多い方式が「出願基準方式」だ。これは、学部(学科)への出願にあたり、外部試験での一定のスコアを取得していないと出願できない方式である。
次に、「みなし満点/みなし配点方式」がある。外部試験のスコアを一般入試やセンター試験の外国語のスコアに換算する方式で、満点に換算する場合や、外部試験のスコアに応じて80~100点などに換算するケースなど換算の仕方は色々ある。
このほか、採用大学はまだ少ないが「加点方式」(外部試験のスコアを一般入試やセンター試験の外国語のスコアに加点する)や「個別試験代替方式」(外部試験のスコアをそのまま合否判定に活用する)など、活用方法は広がりつつある。
■ TEAP CBTについて
今秋、TEAP CBTが登場する。TEAP CBTは、コンピュータ上で操作するICTを活用し、大学で必要とされる実践的な英語力を測るテストだ。ライティング、スピーキングテストがさらに実践的になる。また、リーディング+リスニング+スピーキング、リーディング+リスニング+ライティングといった、複数技能を組み合わせた統合型問題が多数出題される。今年度は2016年10月16日、東京と大阪の2都市で開催、次年度以降は拡大する予定だ。
※受験料や申込み方法など詳細は公式HPにて掲載中
英検協会のサイトは下記にてご確認を。(外部リンク)
・英語検定協会
⇒ https://www.eiken.or.jp/
・TEAP
⇒ https://www.eiken.or.jp/teap/
・TEAP CBT
⇒ https://www.eiken.or.jp/teap/cbt