志望校選択は、人生の大きな岐路といっても過言ではありません。 志望校を選択する上で、教育カリキュラムはとても重要です。
しかし、なかなか教育の中身まで知る機会は少ないかもしれません。
長いようで短い3年間の高校生活。
本当に “面白い” と思えるような勉強が学校でできること、好きな科目や研究に出会えることが、とても大切です。
パスナビでは、特色ある教育カリキュラムをテーマに連載を開始します。
第1回目は、理科・数学に特化した教育を行う「スーパーサイエンスハイスクール」の特集です。
スーパーサイエンスハイスクールとは
未来を担う科学技術系人材の育成をねらいとして、理数系教育の充実をはかる取り組みで平成14年度からはじまりました。
文部科学省が「スーパーサイエンスハイスクール(※以下SSH)」として、高校を5年間指定します。平成23年度現在、SSHの学校数は計145校あります。
SSHに指定された高校では、先進的な理数教育の実施、英語でのプレゼンテーション演習等による国際性を育成するための取り組み、大学等と連携してカリキュラム開発を行うなど、理科・数学教育を重点的に行い、科学技術に夢と希望を持つ創造性、独創性の豊かな人材育成に取り組んでいます。
――SSHは、どのような学校が選ばれているのでしょうか。
指定校が決まるまでの流れは、まず、文部科学省が全国の高等学校に希望を募ることから始まります。各都道府県の教育委員会等の管理機関を通じて提出された各校の取組み内容を、外部の企画評価会議委員が審査し、指定校を決定します。平成22年度は71校から応募があり、その中から36校が新規に指定されました。
当初は3年間の研究指定でしたが、平成17年度から5年間に延長されており、指定終了後に再度指定されている学校もあります。平成22年度は36校(国立3校、公立31校、私立2校。うち17校は過去にも指定を受けている)が新たに指定を受け、全国のSSH校は合計125校になりました。
――各都道府県に一校は配置されているのでしょうか。
指定終了校も含めると、全都道府県にSSHの経験のある学校が存在します。
――どのような教育内容なのでしょうか。
SSH各校が作成した計画に基づき、学習指導要領によらない独自カリキュラムの開発・実践、大学・研究機関等との連携、地域の特色を生かした課題研究等さまざまな取り組みを行っています。これにより、従来の高校生活では得られない人との出会いや知的体験をする機会も多く、SSHは子どもたちの将来への布石になっているといえます。
SSHでは校内外で研究成果を発表する機会を積極的に設け、発表に要するプレゼンテーション力や英語など語学力の強化も行っています。調査によれば、指導にあたった教師の8割以上が、生徒のプレゼンテーション力、科学技術に対する興味・関心・意欲が向上していると回答しました。
――専門的な科学研究が高校でできるというのは、子どもたちにとって大変魅力的ですね。
世の中の現象や真理を探求していくおもしろさは、理数系ならではのものです。SSHが触媒となって、子どもたちに刺激を与えることで、大学や社会で力を発揮していく。そうしたひとつのきっかけになることを願っています。
――SSHで学んだ生徒は、卒業後はやはり理数系の研究職を目指す人が多くなっていますか。
平成14年度にスタートしていますが、平成20年度のSSHの卒業生の進路を調査したところ、理数系への進学割合が指定前年度の42.9%から46.1%に増加しています。卒業生の修士以上への進学希望も一般学生の2倍以上でした。SSHの卒業後の進路が、よりリアルな数字として見えてくるのはこれからなので、今後も追跡調査を続けていきたいと思います。
――これまでのSSHの取り組み例を何校か挙げていただけますか。
たとえば、平成18年度指定の埼玉県立川越高校では、「スーパーサイエンス基礎Ⅰ、Ⅱ」という科目を新たに設け、1年次は全員必修、2年次は希望選択としています。ここでは分野を融合したコースを設定し、教員による授業を軸に、大学の研究者を招へいしての講座や実習等を行っています。平成20年10月には、ノーベル物理学賞受賞者小柴昌俊東京大学特別栄誉教授によるニュートリノの講演が行われました。
また、京都市立堀川高校は平成14年度、17年度、22年度と指定を受けており、これまで小・中学校及び大学・研究機関等との継続的連携の在り方や理数系教育の指導法に関する研究開発等を進めてきました。平成14年度、19年度と指定を受けている愛知県立岡崎高校は、名古屋大学との間に高大連携教育プログラムを実施して、高大の円滑な接続や教員の指導力向上等を図ってきました。双方の高校ともこれまでの経験を踏まえ、平成22年度からは「コアSSH」として、地域の中核的拠点形成を果たしていくこととなりました。
平成17年度、22年度指定の鹿児島県立錦江湾高校では、地元の特産物である桜島ダイコンの研究を行う中で、全国のSSHと連携しています。同校も今年度の「コアSSH」に採択されています。
――「コアSSH」は、どういう役割でしょうか。
平成22年度から従来の「中核的拠点育成プログラム」及び「重点枠」を整理・統合の上、「コアSSH」を新たに設定しました。
コアSSHに採択された学校は、通常のSSHの取り組みに加え、①地域の中核的拠点形成(1~3年間)、②全国的な規模での共同研究(コンソーシアム型)(1年間)、③海外の理数系教育重点校との連携(1年間)、④教員連携(1年間)、この4項目のいずれかに重点的に取り組んでいきます。 ①では、SSH校が蓄えてきた先進的な指導方法やカリキュラム等の成果を、地域の高等学校等に波及させる意欲的な学校を支援します。②では、特定のテーマについて、他の高等学校等と共同で研究する学校を支援していきます。
「コアSSH」によって、SSHの取組みを点から面へと広げ、理数系分野の人材育成をさらに拡充していきたいと考えています。
――SSHの研究成果はどういう形で発表していますか。
毎年8月にはパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)に全国のSSHの代表生徒が一堂に会し、生徒研究発表会を行っています。平成21年度は2日間にわたり約2,000人が参加しました。ポスター発表会場では、海外からの参加者の質問に対し、堂々と英語で受け答えする生徒の姿も見られました。
1日目には6つの分科会に分かれて、指定3年目の学校による口頭発表が行われました。 各分科会ごとに選出された代表校が2日目の全体会に臨みます。分科会、全体会ともに各校の代表生徒が発表した後には、発表者と聴講者の間で熱心な質疑応答が交わされました。
最終審査の結果、最も優秀な研究発表を行った学校には、文部科学大臣表彰が与えられます。平成21年度の受賞校は京都府立洛北高等学校で、研究テーマは「天然染料を使ったインクジェット印刷」でした。そのほか独立行政法人科学技術振興機構理事長賞を福島県立福島高等学校など5校、ポスター発表賞を立命館高等学校など13校が受賞しています。
――SSHの今後の展望を教えてください。
学校数を増やしていくことと、SSHの取組みや効果を広げていくことです。平成26年度までにSSHを200校にすることを目標としています。才能溢れる子どもたちの参加を増やし、挑戦する機会を与え、その機会を増やしたいです。
近年、高校生が自分の努力の成果を発表し鍛錬し合う場が、スポーツに限らず学問研究においても増えつつあります。SSH生徒研究発表会もそのひとつですが、独立行政法人科学技術振興機構が支援する「国際科学技術コンテスト(国際科学オリンピック)」にSSHの生徒も例年数多く参加しています。平成21年度は、物理、化学、生物、情報、数学の分野の国際大会で、日本は代表選手全員がメダルを受賞し、うち12個の金メダルを獲得するという過去最高の成績を修めました。
SSHと並行して、 国際科学オリンピックやISEF(国際学生科学フェア)などの国際大会に日本の高校生がチャレンジする機会を増やしていくことで、将来の科学技術をリードする人材の育成を進めていきたいと考えております。
東京・神奈川・埼玉・千葉県 SSH採択校一覧
※平成18年度指定で、平成23年度新規指定に採択された学校
(全国のSSH一覧校はこちら )